1. 渡来人は日本を征服したのか?

天孫降臨の謎: 『日本書紀』が封印した真実の歴史 著者: 関裕二

めざましい科学の進歩によって、現代の日本列島の住民の遺伝子のなかに、想像以上に渡来系の血が混じっていることが徐々に明らかにされている。その比率は、縄文人を1とすると、弥生時代以降に渡来した人たちは2~3に上っていたと考えれている。この数字を見れば、渡来人が先住民を圧倒したと考えるのは当然である。

そして第二に、『古事記』や『日本書紀』に記された天孫降臨神話が、大きな意味を持っているように思われる。天孫降臨からカムヤマトイワレヒコ(神日本磐余彦=神武天皇)の東征というヤマト建国に至る神話は、まさに、「海外からの侵略」を想像させるからである。

ところで、小山修三氏は遺跡の数などから先史時代の人口を試算し、縄文後期の日本列島全体の縄文人が16万3百であり、晩期に75,800に激減したこと、しかも弥生時代になると59万4900と爆発的に増加したことを指摘している。このこともあって、渡来人が土着の縄文人を駆逐したと信じられてきたわけである。
たしかに、単純にこの数字を追っていけば、縄文人は弥生時代の到来とともに、「滅亡」に近いほどの打撃を受けたかのように思えてくる。それを征服と呼ぶのも間違っていないかのようだ。しかし、ここには落とし穴があると思われる。

はたして渡来人は日本を征服したのか?

縄文晩期から弥生時代にかけて、縄文人と渡来人の接点では、しばしば縄文人による呪術的な土器が生産されている。魔よけのまじないをしていたようだ。では、彼らは何を恐れていたのだろう。

渡来人が恐ろしかったことが一つ考えられる。それは、渡来人の武力に対する恐怖だったのだろうか。しかし、武力には目に見える恐ろしさである。それには矢じりなどを作れば良かったはずである。縄文人が恐れたのは、目に見えない「なにか」であり、その正体は「病魔」ではなかろうか。

島国のなかで無菌状態のなかにあった縄文社会に、突如新たな病原菌やウイルスが持ち込まれ、抵抗力のない人々が次々に倒れていった……それが縄文晩期から弥生初期の日本列島の姿ではなかったか。
古代人は悪霊が病気を運んでくると信じていた。渡来人の到来とともに、病魔が襲ってきたのである。縄文人たちは必至に悪霊を退散させようと呪術を施したに違いないのである。ただ、病原菌やウイルスは宿主を全滅させることはない。病魔に屈しなかった人々は、ここから活発に動き出し、人口はふたたび回復基調に戻るのである。また、縄文後期の日本列島は寒冷化の時期に当たり、食糧不足も手伝っていたであろう。これに対し、弥生時代の日本列島は温暖な気候に恵まれていたのである。

崎山理氏は、縄文人といっても単一の民族ではなく、北方系のツングース語に、南方系のオーストロネシア語が日本列島のなかで重なって「縄文語」が成立し、これが日本語になった、というのである。縄文期と弥生期の遺伝子の比率を見れば、渡来人の圧倒的な優位を想像しがちだが、渡来人たちは徐々に同化していったのであり、だからこそ、縄文人のつくり上げた「日本語」は、今日に継承されていったと考えられるわけである。
『日本書紀』のなかで「神武東征」と華々しく描かれたヤマト建国も、実際には征服劇ではなかったことは、考古学的にほぼ立証されている。ヤマトは、ひとりの独裁者の征服劇によって成立したのではなく、いくつもの首長層の緩やかな連合体であった可能性は高くなる一方なのだ。

三世紀のヤマトには、前代未聞の政治と宗教の都市・纏向(まきむく)も前方後円墳も、どちらも吉備、出雲、北部九州、ヤマトという当時の巨大化した勢力圏のそれぞれの文化を持ち寄った代物だった可能性が高く、そのなかで吉備が優位性を保っていたようだが、唯一突出した存在というものがなかった。したがって、三世紀のヤマトの「大王」は、征服者でも独裁王でもなかったと考えられるようになったのである。
今だに指示されている王朝交替説は、五世紀頃、ヤマトから河内(大阪府)方面に王朝が移ったことが根拠のひとつにあげられている。三世紀の時点でヤマトが都に選ばれたのは、ヤマトが大阪方面を望む盆地で、天然の要害だったからである。河内の利点は、古代の交通の要衝・瀬戸内海に接し、流通と情報収集の拠点として最適だった、ということになろう。だからこそ、ヤマトから河内の都を遷すことに大きな意味があった。
もし仮に、多くの人が信じるように、五世紀に「河内王朝」が武力をもって「ヤマト王朝」を倒したのだとすれば、新たな政権は、都を河内に移すようなことはしなかっただろう。旧政権の遺民がヤマトで反旗ののろしを上げれば、河内王朝は太刀打ちできなかったはずである。それほど、ヤマトは西からの攻撃に強いのである。河内への王朝の移動は、「新王朝樹立の証」ではなく、ヤマト王朝の安定と発展の証に過ぎないのである。
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