【たじま昔ばなし】 難儀にあったお大師様(朝来市山東町楽音寺)

何百年か昔、楽音寺(がくおんじ)というお寺にどろぼうが入りました。「何か金目のものはないか」と探しているうちに、お祭りしてあった一尺二寸(四十センチほど)ばかりの金のお薬師様が目につきました。お薬師様は、病気を治してくれる仏様で、手には薬が入った小さな壺(つぼ)を持っています。

「よしよし、こいつは金になるぞ」

どろぼうはそう言うと、お薬師様をつかんでそのままにげてしまいました。

どろぼうは、遠くまでにげると、お薬師様を鍛冶屋(かじや)に持っていって売り飛ばしました。この鍛冶屋も悪い人だったので、買い取ったお薬師様をとかして、金のかたまりにしてしまおうと考えました。

さっそく火をおこしましたが、どんなに火をたいてあぶっても、お薬師様は少しもとけません。おこった鍛冶屋は、それなら金づちでたたいてつぶしてやろうと、大きな金づちを持ち出しました。そして大金づちをふりあげると、力いっぱいお薬師様をたたきました。ところがお薬師様は少しもへこんだりしません。「ええい、このやろう」と、たたくと、こんどはたたくたびに、お薬師様が「がっこんじ、がっこんじ」とおっしゃるではありませんか。

鍛冶屋はびっくりしてこしをぬかしました。

「こんな仏様をつぶしたりしたら、ひどいばちがあたるかもしれん」

こわくなった鍛冶屋は、日が暮れるのを待って、お薬師様をかかえるとこっそり楽音寺までやってきました。そして、お堂のそばにあった弁天池に、お薬師さまを放りこんでにげてしまいました。

それから何日か後のことです。ちょうど日暮れ時に遠坂峠(とおざかとうげ)を歩いていた旅人が、楽音寺のあたりをながめていると、何かぴかぴかと光るものが見えます。「いったい何だろう」と思いながら、その光るものを目指して歩いていると、弁天池に行き当たりました。
光は、池の中からさしています。

旅人はおどろいて、お寺のお坊(ぼう)さんのところへ飛んでゆきました。話を聞いたお坊さんが、村人にたのんで池の底をさらってみると、なんと先日ぬすまれたお薬師様が見つかったではありませんか。

お坊さんはさっそく、お薬師様のために新しいお堂をたてて、ていねいにお祭りしました。

火で焼かれたり、金づちでたたかれたり、たいへんな難儀(なんぎ)にあったのに、無事にもどってきたお薬師様です。きっとどんな病気でも、けがでも助けてくださるだろうという話が、遠くまで伝わりました。それからというもの、近所だけでなくずっと遠い村からも、お参りする人が絶えなくなったということです。

兵庫県歴史博物館 ひょうご伝説紀行 - 神と仏 ‐

http://www.hyogo-c.ed.jp/~rekihaku-bo/historystation/legend2/html/002/st04.html
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