臣下の安万侶が申し上げます。
そもそも、万物万象の初め、混沌とした大本の部分はすでに固まっていたが、まだ生命も形も現われなかったころのことは、名もなく、また動きもなく、誰もその形を知りようがなかった。
上巻 創世編
1 天地の始まりと神々の誕生(天地開闢)
しかしながら、天と地が初めて分れて、高天原という神様が住む場所に、アメノミナカヌシ(天之御中主神)が最初の神様が現れた。長いのでミナカヌシ。独神。すぐに姿が見なくなった。
その名の通り、天の中心にいる神様。
次にタカミムスビ(高御産巣日神)、次にカミムスビ(神産巣日神)の独神が現れたが、またすぐに姿が見えなくなった。
高御産巣日神・神産巣日神は、対になって男女の「むすび」を象徴する神で、「産巣」という字は、苔むすといった時の「むす」を意味していて、「日」は霊的な働きを意味する言葉で、この二柱は生命が生まれる神秘的な力が神格化した神様。
この三柱の神は、造化の三神という。三柱は出現したと思ったら、すぐに姿が見えなくなってしまうが、いなくなったわけではなく、目には見えない状態になっただけで、タカミムスビなどは、この後も度々登場して大活躍する。
三柱の神(造化の三神)
天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ) 至高の神
高御産巣日神(たかみむすひのかみ) 生産・生成の「創造」の神
神産巣日神(かみむすひのかみ) 生産・生成の「創造」の神
別天津神(ことあまつかみ)
続いて、海に浮かぶクラゲのような国土が形作られて、二柱の神が現れた。
宇摩志阿斯訶備比古遅神と天之常立神。
この二柱の神もまた独神で、すぐにそのまま身を隠してしまった。
宇摩志阿斯訶備比古遅神は、葦の芽のようにすくすくと育つ生命力の神様で、この上が出現したことで、世界は生命力に満ち溢れた。
生命力が満ち溢れることで「天」を作るだけのパワーが生まれた。
こうして天之常立神が現れ、「天」が永久的に出来上がることになったのだ。
この五柱の神は独神で、独神といっても独身の男女ではない。性別はなく、姿かたちもないふわ~っとした神様。これ以降、表だって神話には登場しませんが、根元的な影響力を持つ特別な神。そのため造化の三神とこの二柱の神を合わせてた五柱の神は、別天津神(ことあまつかみ)と呼ばれる。
これからたくさんの神様が登場するが、日本神話の神様は、海外の神話と違って全知全能でない。実に人間らしい(人間ではないが…)というか、八百万といわれるほど多くの神様がおりながら、最高神となる神様はいない。それぞれ欠点もありながら、助け合って国つくりをしていくのが日本神話。そこが日本という国柄のポイントかも。
高天原で、国之常立神(くにのとこたちのかみ)と豊雲野神(とよぐもぬのかみ)という神様が生まれた。
この二柱の神もまた独神で、すぐにそのまま身を隠してしまった。
国之常立神が現れたことで、今度は「地」が永久的に出来上がる。
これで「天」と「地」と揃ったことになるが、この時は「天」と「地」が今のような「天」が上で「地」が下でという風に定まっていなかった。
豊雲野神は、物事が次第に固まることを神格化した神様。
この神様が生まれたことでそれまでふわふわと頼りなかった「天」と「地」が、今のような上に「天」・下に「地」という状態に固定された。
「天」が下で「地」が上になったり、あるいは「天」と「天」の間に「地」になったり、ということになりかねないような、大分混沌とした世界。
このあとの代の五組の神々はそれぞれ男女の対の神々である。
どろどろした固まりだった宇宙は、天と地に分かれ、神様たちが住んでいる天を、「高天原(たかまがはら)」という。国産み(くにうみ)とは日本の国土創世譚を伝える神話である。
あるとき、神様たちが高天原から見下ろしてみますと、下界はまだ生まれたばかりで、ぜんぜん固まっていません。海の上を、何かどろどろ、ふわふわとした、くらげのようなものがただよっているというありさまでした。
ここから先は兄と妹の男女ペアで神様が出現し、兄と妹で結婚する。
神様の世界では、兄と妹が結婚するのは理想的な結びつきとされていた。
神様でないと兄妹で結婚出来ないので、だからこそ神様でない者が兄妹で結婚をすることはタブーとされているのだろう。
男女ペアで最初に出現したのが、泥土と砂土の神様。
泥土の神が兄のウヒヂニ(宇比地邇神)で、砂土の神が妹のスヒヂニ(須比智邇神)。
地の位置が定まったので、地表を覆う土や泥の神様が出現したのだ。
次に境界線の神様が出現した。
兄がツノグイ(角杙神)で、妹がイクグイ(活杙神)。
今度は、固まった大地の神様が出現した。
兄がオホドノヂ(意富斗能地神)で、妹がオホトノベ(大斗乃弁神)。
ふわふわした大地では生活が出来ない。
そのため、このような神様が出現することで、地面に生活することが出来るくらいの強度が生れたのだ。
このように神様が生まれるたびに、世界はどんどん形成され、神々が住むことが出来るくらいの土台が造られていった。
余談だけど、地球や日本列島誕生のことを神様にたとえて勝ったいるみたいだ。
ウヒヂニ(宇比地邇神)からオホトノベ(大斗乃弁神)の6柱は兄と妹であったが、男女の象徴を持つ神様ではなかった。まだ男女という性が確固として定まっていない神様同士、結婚していたのである。
ここで初めて、男女の象徴の神様が出現する。
兄がオモダル(於母陀流神)で、妹がアヤカシコネ(阿夜訶志古泥神)。
日本の神様は事が起こる前に事そのものが神格化した神が出現し、神様が出現することで事が行われる。
オモダル(於母陀流神)とアヤカシコネ(阿夜訶志古泥神)という男女の象徴の神様が出現したことで、初めて「男」「女」という性別が各々の役割をもって定まったのだ。
そうして、これらの神々の最後に生まれてきたのが、イザナギ(伊邪那岐神)とイザナミ(伊邪那美神)の兄妹。
他の神々と違って、精神的にも肉体的にもはっきり「男」と「女」の区別がなされた神様だ。
このような神様が出現したことで初めて、神様同士まぐわいが出来ることになりました。
まぐわいが出来るということは、神様同士で夫婦の契りを交わして、子供を生むことが出来るようになったということです。
これまでは自然と「出現」していた神様ですが、この2柱の神様のまぐわいによって神々が「誕生」することになります。
だからこそ伊邪那岐神と伊邪那美神は、夫婦の祖神(最初の神)とされているのです。
男女のペアとなっている神は、二柱で「一代」(ひとよ)と呼びます。
国之常立神と豊雲野神、五代の五組十柱の神々を合わせて、神代七代(かみよななよ)と呼ぶ。
リストでは、左側が男性神、右側が女性神。
男性神 | 女性神 |
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宇比地邇神(うひぢにのかみ) | 須比智邇神(すひぢにのかみ) |
角杙神(つのぐひのかみ) | 活杙神(いくぐひのかみ) |
意富斗能地神(おほとのじのかみ) | 大斗乃弁神(おほとのべのかみ) |
於母陀流神(おもだるのかみ) | 阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ) |
伊邪那岐神(いざなぎのかみ) | 伊邪那美神(いざなみのかみ) |
『古事記』
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