『日本古代史入門』 著者: 佐藤裕一氏によると、
5 北から「原倭人」登場
紀元前2500年頃にかけて冷涼期間が続いたといいます。この期間に東日本の植生は変化し、日本海側ではスギ・ブナなどが増え、ナラ・クリなど照葉樹林が減少します。
小山修三氏(1939~、国立民族博物館名誉教授)らは、縄文時代の後半には、大陸から新しい文化を持った人々が渡来し、それまでの縄文人には免疫のない新しい病気をもたらしたであろうと主張しています。
また、小山氏らは、気候の変化と食糧事情の悪化、疫病などのために、日本の人口は減少し、縄文晩期の全人口は、7万6000人程度に落ち込んだとといいます。
東日本の人口は減少しますが、九州を中心とする西日本の人口は、あまり落ち込まず、東日本に比べると相対的に人口は多くなったとみられます。それは、大陸から渡来した人々が、芋・豆・雑穀を内容とする焼畑農耕文化をもたらしたことによるものと考えられます。
紀元前1500~1000年頃、大陸から押し出される形で朝鮮半島南部・壱岐・対馬・北部九州に住み着いた焼畑農耕民が、日本人の直接的な祖先である「原倭人」で、その「原倭人」は人口を増加していったとみられます。
「原倭人」の文化は、それまでの縄文人の文化と混じり合いました。
安本美典氏(1934~、元産能大学教授)は、「原倭人」は、遺伝的に「北方型」の「Gm遺伝子」で、すでに朝鮮語とは異なる言語を話しており、その「原倭人」の言語は現代日本語と関連性のある「日本語祖語」であった、と述べています。また、軽量言語学によれば、現代朝鮮語と現代日本語とは、分裂してから5000~6000年以上が経過している、ともいいます。
縄文時代を通して、何回も何回も日本列島に人々が渡ってきたと考えられますが、その中でも大きな流れがこの「原倭人」の流入です。
6 日本人北方起源説の根拠:「Gm遺伝子」
松本秀雄氏(1924~、元大阪医科大学学長)は、人間の抗体(細菌やウイルスなど異物を排除・破壊する)がもっている「Gm遺伝子」(Gm:ガンマ・マーカー)のデータから、日本民族は北方型蒙古系民族に属し、その起源はシベリアのバイカル湖畔と推定した上で、概ね次のように述べています(『日本人は何処から来たか』の内容を要約した)。
①「Gm遺伝子」の分布によって、蒙古系民族は、南方型と北方型とに大別でき、日本民族は北方型である。南方型蒙古系民族との混血率は、7~8%であって、高いものではない。
②日本民族は、「Gm遺伝子」に関する限り、北海道から沖縄に至るまで驚くほど均質である。
③アイヌも、遺伝子構成においては、一般日本人とほとんど変わりがない。
④アイヌと沖縄・宮古の人々は、まったく等質で、日本の一般的な集団に比べて、より北方的特徴を示す。
⑤朝鮮民族は、日本民族と同様等質的だが、日本民族との間にはかなり高い異質性がある。朝鮮民族は、北方型の「Gm遺伝子」パターンを持ちながら、それよりはるかに強く漢民族などの影響(混血)を受けていると見られる。中国と陸続きであることの影響と思われる。
⑥中国は、「Gm遺伝子」の頻度分布に、南北方向の地理的勾配がある。漢民族の場合は、北方型・南方型の二つの型の存在を考えないと、分布パターンの説明が難しい。
⑦日本民族に高頻度にみられる遺伝子特徴は、バイカル湖畔のブリアートをピークとして四方に流れていることである。蒙古、オロチョン、朝鮮、日本、アイヌ、チベット、コリヤーク※1、エスキモーなどが高頻度である。
以上から、北方型蒙古系民族が日本人の中核をなしていたことは原初以来一貫しており、また、それほど大きくは異民族の血を受けていない、といえるようです。
北方型「Gm遺伝子」をもち、日本語と同じ語順の言語を話す「原倭人」が、約3500~3000年前に、北部九州を中心に現れ、その後、日本列島全体を覆っていったのです。
※1…カムチャツカ半島および隣接するシベリア,一部ナバリン岬にすむコリヤーク語を話す人びと
7 日本人北方起源説の根拠:語順
日本語と同じように、原則として「私は・本を・読む」「主語S-目的語O-動詞V」という語順をしている言語には、安本美典氏によれば、次のようなものがあります。
(a)日本列島及び周辺の言語=日本語、琉球語、アイヌ語、朝鮮語、ギリヤーク語(黒竜江下流域とサハリンに住む民族の言語)
(b)アルタイ諸言語=ツングース、モンゴル、トルコ語など
(c)ウラル諸言語=フィンランド、ハンガリー、ラップ語など
(d)チベット・ビルマ系諸言語=チベット、ビルマ、ロロ、レプチャ語など
(e)インド・イラニア語=ヒンズー、ペルシャ、ベンガル、ネパール、シンリハー(スリランカの主要言語)など
(f)その他=シュメール、ドラヴィタ諸言語(タミル語他)
これらをよくみると、日本語と同じ語順(S+O+V)の言語が、中国諸言語を取り囲む形で分布しています。そして、北方型蒙古系民族に属する「Gm遺伝子」パターンをもつ人々の分布は、ほとんど日本語と同じ語順の言語の分布地域と重なり合っています。
(中略)
「言語年代学」は、二つの言語がいつ分裂したかを調べる学問で、その方法で、アイヌ語と朝鮮語が分裂した時期を推定すると、5000~6000年程度前となります。
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