三瓶山・大山など山陰と山陽を分ける中国山地の東端に氷ノ山・扇の山があり、尾根づたい兵庫県で最も古い旧石器時代の遺物・遺跡が発掘されていることから、中国山脈の山岳地帯に住み、さらに尾根づたいに獲物を求めて移動し、鉢伏山、神鍋山辺りに住み着いたとも思われる。縄文時代の神鍋遺跡や磐座を思わせる岩倉という字が残る。
つまりそれは噴火口のぽっかり開いた神鍋山(かんなべやま)などの火山群を、神鍋山の噴火口跡を見つけた縄文人たちは、不思議な地形にさぞ驚いたことだろう。神様が宿るところ、カンナビ(神名備)だと崇めたのだと想像する。
『国史文書別記 但馬郷名記抄』に、
気多
この郡の西北に気吹戸主神の釜あり、常に烟を噴く。この故に気多郡と名づけ、郡名となす。今その山を名づけて『神鍋山』という。
また、根拠はないが、縄文人のことばは、ニュージーランドの先住民、マオリ族のマオリ語に 「ケ・タ」、KE-TA(ke=different,strange;ta=dash,lay)がある。「変わった(地形の)場所がある(地域)」 という意味である。
神鍋山(かんなべやま)
気多郡太多郷(兵庫県豊岡市日高町太田・栗栖野にかけて)にある神鍋山は、大正時代に開かれた関西初のスキー場として知られている。関西では珍しい約2万年前の火山活動でできた擂鉢状の噴火口と草原になっている。地質学でスコリア丘といい、標高469m、周囲約750m。噴火口は深さ約40m。北西隣のは大机山、南東の太田山、ブリ山、清滝山といった単成火山とともに神鍋単成火山群を構成している。周辺には同時代に生成された風穴・溶岩流・滝などがあり、同じくスキー場として知られる鉢伏高原(養父市)とともに早くから人が住み着いた遺跡や古墳が多数見つかっている。岩倉という小字もあるが、おそらく神鍋山をご神体とした磐座があったのであろう。神鍋と名付けられたのは、神様の大きな鍋のような山に見えたのか知れないが、以下のようにカンナビは全国にあることから、神奈備「かんなび山」がもとだと思える。「神奈備(かむなび)」が訛って「かんなべ」となり、「神様のお鍋」、「神鍋」という字を当てたのではないでしょうか?!
神奈備(かむなび)
「かんなび(山)」は信仰の対象として古代人に祀られていた山のことを指す。神奈備「カンナビ」は「神並び」の「カンナラビ」が「カンナビ」となったとする鎮座の意味や「ナビ」は「隠れる」の意味であり、「神が隠れ籠れる」場所とする意味であるという解釈がある。神名備・神南備・神名火・甘南備とも表記する。
神社神道も元は、日本で自然発生的に生まれた原始宗教ともいわれ、自然崇拝や精霊崇拝を内包する古神道から派生し、これら神社神道も古神道も現在に息づいている。
おそらく縄文時代、遅くとも弥生時代には、自然物崇拝をする原始信仰の対象で、背後にある山や、山にある岩(磐座いわくら)を神として奉った信仰において、神が居る場所の事、もしくはそのような信仰の事を意味する。神奈備信仰の神社では、山や磐がご神体のため、もともと社内にご神体を奉った建物がなかった。
神社の起源は、磐座や神の住む場所である禁足地(俗に神体山)などで行われた祭事の際に、臨時に建てた神籬(ひもろぎ)などの祭壇であり、元々は常設のものではありませんでした。元来は沖縄の御嶽(うたき)のようなものだったと考えられます。
現在の神社には、神体として注連縄しめなわが飾られた社があるが、同時に境内の内外に神木や霊石としての岩や鎮守の森、時として湖沼や滝などの神体が存在し、主たる賽神さいじんの尊みこととは別に、自然そのものの神体が存在する。また古代から続く神社では、現在も本殿を持たない神社があり、磐座や禁足地きんぞくちの山や島などの手前に拝殿のみを建てているところもある。例えば奈良県桜井市の大神おおみわ神社、天理市の石上いそのかみ神宮、福岡県宗像市の宗像むなかた大社などである。
社に社殿が設置されるようになる過程には、飛鳥時代に仏教が伝来しその寺院建築の影響もあるといわれているが、神社には常に神がいるとされるようになったのは、社殿が建てられるようになってからといわれている。現在の神社神道としての神体は「社(やしろ)」、すなわち神社本殿であり、神奈備とはいわなくなった。
出雲国風土記におけるカンナビ山
一般的にはカンナビを「神奈備」と書くが、出雲国風土記には、「神名樋野」「神名火山」と書いて、意宇郡、秋鹿郡、楯縫郡、出雲郡の4カ所であったとされている。これらはいずれも「入海(宍道湖)」を取り巻くようにそびえている。
■「神名樋野」風土記では(茶臼山) 秋鹿郡(松江市山代町 矢田町)
■「神名火山」(朝日山)眞名井神社 意宇(おう)郡(松江市東長江町・鹿島町)
■「神名樋山」(大船山)楯縫郡 (出雲市多久町)
■「神名火山」(仏経山)曽支能夜社(そきのやのやしろ) 出雲郡(簸川郡斐川町神氷)
但馬国名神大社の特徴
式内社が全国で5番めに多い但馬国。そのなかでも朝廷より幣帛を受ける特にに重要な神社を名神大社という。但馬国には9社ある。
山・海・川などの自然信仰に由来する神社
そのものずばり名神大 山神社、気吹戸主神の釜だと思われる名神大 戸神社、雷の神 名神大 雷神社、薬草の神 名神大 [木蜀]椒神社(以上気多郡)
名神大 海神社(今の絹巻神社) (城崎郡)
多遅麻国造(人)をまつる、出石神社、御出石神社(以上出石郡)、粟鹿神社(朝来郡)、養父神社(養父郡)
2002年4月29日初稿 2015年12月8日改訂