「但馬牛」の系統の基礎となった「周助ツル」

前田 周助
寛政9年生まれ。
兵庫県美方郡香美町小代区水間に生まれました。
但馬牛の改良に人生をかけ、優良な系統牛「周助ツル」を作り出した。今の「但馬牛」の系統の基礎となった。

但馬牛の改良に人生をかけ、優良な系統牛「周助ツル」を作り出した。今の「但馬牛」の系統の基礎となりました。前田周助の幼年は、「牛飼い坊主」といわれたほどの牛好きでした。長じてますます牛を愛し、鑑識力に優れ、資財をなげうって、数々の良牛を買い求め続けました。  彼の評判を伝え聞いた兵庫県養父市吉井に住む大博労(だいばくろう)孫左衛門が、はるばる前田家をたずね、その牛を一目見て優秀なのに驚きました。孫左衛門の啓発と援助によって、当時但馬唯一の牛市場であった養父市場に進出しました。周助の取り扱う牛は値段が高いのにかかわらず、飛ぶように売れたので、周助の名とともに小代牛(おじろぎゅう)の名声はますます高くなりました。

弘化年間、村岡藩主の助力を得て、村岡に臨時の牛市場を開設しました。小代牛の基礎と販路の見通しをつけた周助は、いよいよ念願とする良牛の固定化に向かって動き出しました。しかし、これが至難の業で系統牛となる良い牛の中の良い牛を探し求めて数年間、東へ西へと走り回りました。その間に多額の借金をつくり、家族から見放されてもひるみませんでした。

100年に一度かもしれないという良牛、香美町村岡区の三歳メス牛を手に入れ、飼料の吟味から一切の手入れ、特に繁殖には長年の経験を結集して努力した結果、年々続いて良い子牛を産み、遺伝力も優れており、ここに「周助ツル」の開祖ができあがりました。

また、但馬牛を飼う但馬の人々は、牛を家族の一員として一つ屋根の下で共に寝起きして、雪深いきびしい風土に生き、温和で姿美しい但馬牛を大切に育ててきました。

但馬牛(たじまうし)

但馬牛(たじまうし)は、兵庫県産の和牛で黒毛和種の一種。肉質が良く、様々な銘柄牛の素牛や種雄牛として知られています。別名として、但馬牛(たじまぎゅう)や、但馬ビーフと呼ばれることもあります。

古来より但馬地方で飼われており、古事記には「天日槍(あめのひぼこ)が朝鮮から牛を伴って日本に渡来し、但馬出石に住みついた」と記されています。続日本紀では「耕運、輓運、食用に適する」と記され「国牛十図」にも但馬牛の優れた体型、特徴、性質が記されています。戦国時代、豊臣秀吉が大阪城築城の際にも、優れた役能力に「1日士分」を与え誉め讃えたといわれています。

江戸時代以前は、主に田畑を耕したり、輸送の役牛として用いられていました。長命連産で繁殖力が強いため、但馬では生産がさかんに行われており、養父市場(現・養父市)などに牛市が立ち、畿内やその周辺へと取引されていました。小型で力強く、飼料の利用性がよい但馬牛は人気が高かったようです。養父神社は農業の神として知られ、延喜式には養父市場では五十猛命を牛取引の神様とするとあり、神の前で取引・取り決めをするのは古来からの風習で、決して裏切らない事の証でした。五十猛命の父神が素盞嗚尊(スサノオノミコト)とされ牛頭天王とされています。
但馬牛の特徴
それは、優れた肉質と、その強力な遺伝力にあります。
1.資質が抜群によいこと。
毛はやわらかく密生し、骨細で、皮は薄く弾力とゆとりがあって、品位に富み、体のしまりがよい。
2.遺伝力が非常に強いこと。
このため「但馬牛」は全国の和牛改良に広く活用されています。
3.肉質、肉の歩留まりがよいこと。
肉の味が良く、骨が細く、皮下脂肪が少ない。
4.長命連産で飼料の利用性がよいこと。
山野草を好み、古来から「但馬牛は山で育て、草で飼う」といわれています。
明治時代に牛肉を食べる文化が広まると、神戸ビーフとして注目されるようになりました。神戸ビーフの名は、神戸の居留地に住む外国人たちが神戸で手に入れた牛が非常においしかったからとも、横浜などの居留地の外国人たちが生産量の多い関西方面から入手した牛が神戸を経由していたためとも言われていますが、いずれの場合も但馬牛とされています。
明治時代には、品種改良のために、イギリス原産の短角種デボン種、スイス原産のブラウンスイス種などの外国種との雑種生産が行われましたが、肉質悪化、使役能力の低下などが見られるようになったため、雑種交配は短期間で中止されました。

1898年(明治31年)には戸籍にあたる牛籍簿で血統の管理が行われるようになり、1911年(明治44年)以降は外国種の血統の入った牛が排除されました。また、他地域の品種との交配も行わず、限られた雄牛の精子のみを受精させることで血統の純化、改良が進められ、蔓(つる)と呼ばれる系統がつくられています。あつた蔓、ふき蔓、よし蔓の3つの代表的な蔓牛があります。

但馬牛は、資質・肉質が良いため、松阪牛(三重県)、神戸ビーフ(兵庫県)、近江牛(滋賀県)の素牛となっています。また、佐賀牛(佐賀県)、前沢牛(岩手県)、飛騨牛(岐阜県)などのように、但馬牛の血統を入れることで牛の品種改良が行われていることも多いのです。

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