【中国ナウ】5/7 中国が掲げる国家目標と戦略

軍事、経済が急膨張する中国、その弱点は?
共産党政権の矛盾が表面化する危険性も

JBPRESS 2010.06.16(Wed) 茅原 郁生

 前項で見てきたような現実から、中国が掲げる国家目標には共産党統治の正統性に向けた建前的なものと、執政の正当性に応えるための本音的なものとがあることになる。
 まず政府活動報告などでは国家目標は、建前的に「中国の特色ある社会主義の実現」とされている。また多民族国家であることから「国家統合」も掲げられている。
 今日の中国での社会主義建設に関しては、かつての革命輸出的な拡張主義的な狙いというより、むしろ経済の実態が社会主義から逸脱している中で政権の正統性のために降ろせない旗印と見るのが適当であろう。

 現に経済発展に伴って、配分の不公平などを抱えながらも中間所得層が逐次増える中で、誰が共産党に独裁権を与えたのか、統治権の授権に対する疑問が生じており、当局は神経を尖らせている。

大国と途上国の立場を巧みに使い分ける中国

 実際、中国では2008年に共産党執政の正統性を問い、民主政治を求める「〇八憲章」が提案され、200余人の署名で共産党批判が表面化した。その中心的な活動家・劉暁波氏が懲役11年を科せられるなどの実情が、中国の共産党統治体制護持に懸ける執念をのぞかせている。

 また中国は対外的には大国外交を志向しているが、時として発展途上国の立場に立って、米国などの先進国に対する弱者を代表するパフォーマンスで非協調的な姿勢を取るなど国際秩序に挑戦しており、対中警戒感につながっている。

 国内的には、中国は共産党執政を正当化するための戦略として、国民に豊かさを実感させようと2020年までに「小康(ゆとりある)社会の全面実現」を政権の目標に掲げている。
 これは国民の不満を解消する狙いで、共産政権の政策の正当性を懸けたものであって、その実現を10年後に控えて焦り始めている。
 中国では市場経済の導入によって国民の生活水準向上を求める欲望が解き放たれており、その期待を満たすために経済建設を最優先する政策に迫られている。
 具体的には「2020年の国民1人当たりGDP目標を2000年比の4倍に」と明示され、4000ドルを目指しながら経済の高度成長路線と配分の適正化などを実現することが今日の「富国強兵戦略」となっている。
 さらに「国家統合」の目標で言えば、中国にとって台湾問題が未解決で最大の課題ではあるが、2008年のチベットでの自決権拡大の動き、2009年のウイグル族と漢民族間の衝突など多民族国家の統合維持を揺るがすような事案が続いている。

 これら縁辺の少数民族問題はエスニック問題であると同時に、少数民族地域に改革開放政策が浸透し、さらに漢族が移入して資源の収奪や市場経済で優位に立って利益を独占することなどへの反発もある。
 これら弱者に配慮した対応として「和諧社会の実現」が胡錦濤主席から目標に掲げられ、国家政策として社会的な弱者の救済を目指す親民路線が進められている。しかし広大な全国土を中央集権的に統治する政治体制では、機微な調整は困難である。

 共産党独裁の指令的な統治ではこれらの格差是正や各種矛盾の解決には十分対応できないことから、制度的にも共産党執政の正当性が厳しく問われるようになった。

天安門事件が再発する危険性も十分にある

そして1989年には学生と労働者100万人による民主化を求める天安門事件が発生したが、この種事件の再発の可能性は今日も残っている。
 その教訓から、鄧小平主導によって「1つの中心、2つの基本点」戦略が打ち出された。それは共産党独裁統治の堅持は譲らないまま国民に豊かさを与えることを狙いとして掲げられてきたものである。
 この政策は経済建設を中心命題とし、そのために経済面では改革開放政策を推進するとともに政治面では共産党の指導体制を変えないという「2つの基本点」を車の両輪のごとく進めるというスローガンであった。

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 この政策は経済建設を中心命題とし、そのために経済面では改革開放政策を推進するとともに政治面では共産党の指導体制を変えないという「2つの基本点」を車の両輪のごとく進めるというスローガンであった。
 しかしこの「2つの基本点」には、経済には自由競争を導入するが、政治面では多党制を認めず共産党を唯一の執政党として指令的な政治を進めるという根本的な矛盾があり、今日までこの矛盾は諸処で繰り返し暴露されている。

 しかし現実に中国では経済発展が中心課題であり、毎年1000万人の新規雇用の創出を含む13億人口の扶養が懸かっている。
 一定の経済成長を持続させるためには、現実には共産党統治の正統性の論議よりも強い中央政府の指導による国家の分裂や混乱の回避が重視されている側面は見逃せない。
 また国民の満足度の向上のためにも経済成長が不可欠であって、今のところ経済成長を重視する共産党執政の正当性は多くの国民の反発を和らげている現実もある。

 また世界の多極化を対外戦略の目標に掲げる中国は、大国外交を強めている。しかし中国は、大国化に伴い米国から地域安定に責任を共有するステークホールダーたれとの関与政策を受けている。
 経済がグローバル化に組み込まれる中で、国際社会に対する責任や貢献が求められ、対外戦略は国際社会からの要求を無視できなくなっている。
 2005年の国連60周年記念の首脳会議では、胡錦濤政権が「中国は対外政策においても現在の国際秩序を遵守する」として、「和諧世界」を中国の外交方針とする旨を表明した。これは多国間主義を堅持して共通の安全と繁栄を図るという趣旨で、国際協力を掲げざるを得ない中国の立場をうかがわせるものである。

 市場経済の進展で生じる経済格差や不公平感などの諸矛盾や不満の解決は、民意を反映する政治によって初めて調整が可能となることは歴史が示している。
 しかし中国の特色は、国民不満の爆発を、親民路線などで適当にガス抜きをしながらも、基本的には軍事力などの強権で抑え込もうとしているところにある。
 国民の側にも、国家の分裂は弱体化につながり、かつて近代史で嘗めてきた列強から蚕食された歴史体験が教訓となって不満暴発の一定の抑止力となろう。
写真上は、天安門事件当時の中国共産党指導部。(左から)鄧小平・党中央軍事委員会主席、趙紫陽・総書記、李鵬・首相(いずれも肩書きは当時のもの)。下の3枚は天安門事件当時〔AFPBB News〕

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