財政がさらに悪化する民主党政権
渡部昇一の「大道無門」ゲスト:三橋貴明(経済評論家・作家)
経済回復は政府の持ち出しによって支えられている。エコカー減税、エコ家電などだ。中国も減税を停止、アメリカも停止した途端に不況が再発。
現在、世界中の政府が景気対策を拡大し、国債増発を実施している。ところが、じつは順調に国債を消化できているのは、日米両国などほんの限られた国々でしかないのだ。
画像がアップされていないので、三橋氏の記事をさがしてみた。
klug 第二十二回 緊縮財政による財政悪化 後編(1/3) 三橋貴明
2009/10/20 (火) 10:22
http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/2009/10/20/007084.php
総選挙前から緊縮財政を叫び、「ムダを削る」という美名の元に「景気対策の補正予算」を削り続ける民主党政権だが、次第に方向性が奇妙なものになってきた。
削減目標金額とは、記事で言う「三兆円程度の財源」のことである。どうもマスメディアは、「補正予算三兆円を削ると、誰が困るのか」について、全く理解していないように思え、大変に危惧を覚える。
三兆円の政府支出を削ると、GDPのおよそ0.6%が減ることになる。しかし、別段、支出もとの省庁や官僚が困るわけでも何でもない。実際に困るのは、この三兆円が支出されるはずだったビジネスに関わる人々である。要するに、企業及びそこで働く従業員だ。
政府の三兆円の支出は、そのまま「企業の三兆円の所得」になるのである。無論、直接ビジネスに携わる企業のみが潤うわけではない。総計三兆円の所得を得た企業は、設備投資を拡大するかも知れず、従業員に支払われた給与は消費に向かうかも知れない。
今回、三兆円の政府支出が止められたことで、果たしてどれだけのビジネスが影響を被り、どれだけの企業が不利益を被ったのか。この種の検証が行われることは決してなく、メディアはただ、各省庁の予算削減規模について、まるで競争のごとく煽り立てるのみである。「補正予算削減は善! 拒否は悪!」という空気を、まるで魔女狩りか何かのごとく、社会に浸透させていっているのだ。
十月十六日に、実際に総計三兆円近い「平成21年度第1次補正予算の執行の見直しについて」が閣議決定されたわけだが、具体的に「何」が削られたのであろうか。財務省の資料から、削減規模が大きいもの(1000億円超)についてピックアップしてみよう。(以下、財務省の「平成21年度第1次補正予算にかかる事業のうち執行を見直す事業」より。)
■危機対応業務を円滑に行うための日本政策投資銀行の財務基盤強化(財務省):1237億円
■最先端研究開発支援プログラム(先端研究助成基金)(文部科学省):1200億円
■地域子育て支援対策(子育て応援特別手当)(厚生労働省):1100.9億円
■緊急人材育成・就職支援基金(厚生労働省):3533.5億円
■農地集積加速化事業(農林水産省):2979億円
■都市開発資金貸付(国土交通省):1325億円
■交通の安全確保対策(高速道路の4車線化事業)(国土交通省):2613.2億円
■社会資本ストックの耐震化・予防保全対策
(首都高速・阪神高速道路の予防保全対策)(国土交通省):1211億円
■住宅ローンの信用収縮対策等(国土交通省):2000億円
選挙戦の最中に、民主党は、
「政府の支出について仕分けを行い、ムダを削減する」
と、もっともらしいことを言っていた。しかし、実際に削減される補正予算を見る限り、何を基準にして「仕分け」を行ったのか、全く理解ができない。単純に、各省庁に「予算削減目標」を割り振り、数値目標を守るように圧力をかけただけなのではないのか。
例えば、最先端研究開発支援の金額は、元々は2700億円の予算が計上されていた。それが1200億円に減額されるわけであるが、民主党政権は「日本の最先端研究開発支援など、減額しても構わない」なる明確な意思に基づき、「仕分け」を行ったのであろうか。
あるいは、「緊急人材育成・就職支援基金」とは、雇用保険を受給できない人々(非正規労働者など)向けのセーフティネットである。筆者の記憶が正しければ、民主党は今年はじめの「年越し派遣村」騒動に関連し、大企業の派遣切りや、自民党政権の対応を散々に批判していたはずである。自らが政権の座に着いた途端に、失業した派遣労働者へのセーフティネットを縮小してしまうとは、随分と現金なものだ。
さらに「地域子育て支援対策(子育て応援特別手当)」に至っては、意味不明以外に表現のしようがない。そもそも民主党政権が補正予算を削り取っている理由の一つは、政権にとって目玉の施策である「子ども手当」の財源調達なのである。「子ども手当」の財源を得るために、「子育て応援特別手当」の予算を削ると言われても、結局何をやりたいのかさっぱりわからない。「子育て応援特別手当」にしても、「子ども手当」にしても、「少子化対策」の政策という点では、コンセプトがまったく同じなのである。
第二十二回 緊縮財政による財政悪化 後編(2/3)
2009/10/21 (水) 09:15
そもそも今回の補正予算とは、あくまでも「短期の景気対策」が目的なのだ。すなわち、リーマン・ショック以降の日本経済の悪化に伴う、緊急の景気対策なのである。この短期の予算を、民主党は長期の政策であるはずの子ども手当のために、片端から中止していっているわけだ。
「短期の予算」を削り「長期の施策」に充てるとは、なかなかに斬新な発想だ。筆者には到底思いつけない。来年の子ども手当に、削り取った今年度の短期予算を充てたとして、再来年以降はどうするつもりなのだろうか。「長期の予算」を一時的に止め、「短期の施策」を実行するというのならば、まだ理解できるのだが。
要するに、民主党政権の政策は良く言って「随時的」、悪く言えば「行き当たりばったり」なのである。何しろ、民主党政権は未だにまともな「成長戦略」を打ち出しておらず、首相や閣僚が、それぞれ勝手な戦略や政策を振りまいているのが現実なのだ。と言うよりも、全ての大元となる成長戦略がないからこそ、各要人の発言が一貫せず、同時に整合性が全く取れていないわけである。
例えば、首相が勝手に「温室効果ガス 対1995年比25%削減(対2005年比 30%削減)」を国際公約にしてくると思ったら、その裏で「高速道路」を無料化するという。高速道路の交通量を高めつつ、温室効果ガスを三割以上も減らすとは、果たしてどんなマジックを使うというのだろうか。
あるいは、中小企業のビジネスとなる政府支出を片端から削減しつつ、その裏で中小企業向けのモラトリアム法案を検討するという。中小企業が欲しいのはビジネス、すなわち「国内の需要」なのだ。銀行融資の繰り延べが実施されたところで、その後の資金繰りを思えば、喜ぶ経営者は少数派だろう。
真実、中小企業のことを考えるのであれば、政府はむしろ「仕事」を作るべきなのである。すなわち「ムダを削る」という美名の下で、必要な支出までをも削り取る結果に終わりつつある、2009年度補正予算削減を撤回するべきなのだ。
そもそも、選挙戦の最中から、民主党のやり方は「行き当たりばったり」そのものだった。
「成長戦略がない!」
と、批判されると、本来は少子化対策であった「子ども手当」を持ち出し、
「子ども手当による『個人消費拡大』が、成長戦略だ!」
と、反論し、
「その財源はどうするんだ!」
と、突っ込まれると、今度は、
「ムダの削減と、埋蔵金こそが財源だ」
と、やり返していた。この時点で、筆者は民主党の経済感覚の無さに、絶望感を覚えてしまったものだ。公共投資などの政府支出を削減し、子ども手当などの所得移転にお金を使っても、GDP全体が拡大するはずがない。子ども手当について「チケット方式」などを採用し、無理やり消費に使わせる工夫があるならともかく、単に現金を渡すだけでは、その多くが貯蓄に向かうだけに終わるだろう。ましてや、埋蔵金などという、あるのかないのか判然としないものを、まじめ顔で「財源だ」と主張する、その常識のなさには、ただただ呆れるばかりである。
選挙に勝利し、首尾よく政権を取った時点で、民主党は埋蔵金なるものが存在しないと気がついたのだろうか。とりあえず「ムダの削減」のみに、ひたすら邁進している。国内景気が、かつて経験したことがないほどに落ち込んでいる最中に、「ムダ(政府支出)」の削減に走れるわけであるから、その度胸にだけは感心してしまう。しかし、景気の更なる落ち込みに直面してしまう国民の方は、たまったものではないわけだ。
「ムダの削減」による景気悪化に危惧を抱いているのは、何も筆者に限らない。と言うよりも、少しでも経済が分かる人であれば、誰でもその危険性に気がつく。
政府支出を削減する以上、当然ながらGDPは少なくともその分だけ減少してしまう。すなわち、景気が悪化する。日本経済新聞(2009年10月17日 朝刊)に掲載されていた、民間エコノミストの予測によると、三兆円弱の補正予算凍結により、今年度の成長率が0.1から0.4ポイントほど押し下げられるとのことである。(五社平均はマイナス0.2%)
また、民主党政権が推進する政策の来年度成長率への影響については、0から0.3ポイント程度の押し上げ効果しかないとのことだ。同記事において、野村証券の木内登英氏は、民主党の「個人消費底上げ」と「公共投資削減」という政策について、
「アクセルとブレーキの両方を踏むようなもの」
と、実に的を射た感想を述べていた。
第二十二回 緊縮財政による財政悪化 後編(3/3)
2009/10/22 (木) 11:29
さて、成長戦略がないという民主党政権の問題は、様々な面に波及しつつある。特に度肝を抜かれたのは、2010年度一般会計の概算要求額、95兆381億円である。
「ムダを削る」を合言葉に政権交代したはずが、政権担当後最初の予算が「過去最大」というわけだ。しかも、これまで過去最大だった04年度予算編成時が89.1兆円なので、それよりも6兆円も膨らんでいるのである。
各省庁が積み上げた予算が膨れ上がった理由だが、もちろん複数存在する。
例えば、民主党政権は9月14日に、各省庁の事務次官会議を廃止してしまった。すなわち、現在の省庁は横の連絡が全く取れず、互いに孤立している状況なのだ。これまでの概算予算策定時には、予め省庁間で調整し、重複している予算は削り、最適化を図っていたのだが、それが全く不可能になってしまったわけだ。
今後、概算要求の精査が進むと、相当な重複予算が見つかるだろう。しかし、それは省庁間の横の繋がりを断ち切った民主党政権による、まさに自業自得なのだ。
また、現在、民主党政権が血眼になっている補正予算の削減だが、削られた予算の一部が、来年度予算に回っているようだ。さらに、要求時点で具体額を明示しない「事項要求」も、相当額分含まれているとのことである。
正直、予算や予算執行の「素人」が、いきなり「政治主導だ」などと掛け声を上げても、現実が思い通りに進むはずがない。官僚を相手に回して「政治主導」を叫ぶなら、官僚並に行政知識やノウハウを持っていなければならない。現在の民主党政権に、それが可能だとは到底思えない。
そして、何よりも問題なのは、民主党が未だにまともな成長戦略を打ち出していないことである。省庁側にしても、政治の方針がさっぱり分からない状況なのであるから、予算の調整のやりようがないわけだ。「上」の方針が定まらない以上、とりあえず必要と「思われるもの」については、全て要求に突っ込んでくるだろう。いわば、「ダメもと」の予算も相当に含まれていると考えられる。
税収は落ち込み、赤字国債増発は困難で、(相当削られるであろうが)予算は過去最大というわけだ。こうなると、当然「増税」という話が出てくることになる。
(中略)
筆者は、何も国債増発や政府支出拡大に、全て反対しているわけでも何でもない。(と言うよりも、むしろ賛成している。)
しかし、成長戦略がない状況で、官僚があれもこれもとお金を使っていくのは、さすがに勘弁してもらいたい。経済を成長させ、国民福祉を高める為の戦略なき支出拡大など、それこそ無駄づかい以外の何物でもないからである。しかも、それが「ムダを削る」を大々的に打ち出し、政権を獲得した民主党内閣の下で行われるというのでは、できの悪いジョークにしか思えないわけだ。
民主党は、まず「ムダを削る」を優先的に考える思考から、いい加減に脱却する必要がある。「ムダを削る」のは、何のためなのか? 本当に「ムダを削る」だけで、国民は幸せになれるのか。
「ムダを削る」とは、単なる一手段に過ぎない。それが目的化しているところに、現在の民主党経済政策の混乱があるわけだ。
このままでは、民主党政権は「成長戦略なき、支出削減」で、日本経済を奈落の底に突き落とすか、あるいは「成長戦略がないがための、放漫財政」に陥るという、最悪の結果に終わるだろう。
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