【中国ナウ】4/5 中国が引き金・地政学の復活

中国が引き金・地政学の復活
China and the Return of Geopolitics
JBPRESS 2010.02.25(Thu) 谷口 智彦

地政学という言葉が復権を遂げた。国際政治の古い辞書から引っ張り出させたのは、勢力圏の保全と拡大へ舵を切ったロシアと中国である。
ことに最近中国が見せる振る舞いは、リベラル一辺倒だった欧州勢をも、再び世界の地図を地政学のアングルから見る気にさせている。力と力のぶつかり合いとして世界を眺めるリアリズムの視点が、欧州に戻ってきた。
週末をロンドンで過ごし、インドの世界における地位を巡る2日間の議論に参加して、この感を強くした。

中国の脅威、インド人は口々に

インドから加わった研究者や退役海軍将校たちは、1人残らず、中国の脅威を警戒的な調子で語った。米国、日本と組むことが、インドにとって中国の力をバランスするためどれほど大事かを強調した。
典型的な遠交近攻の論理が、地政学の文脈でインド人の口をついて出る。欧州各国からの参加者は、それをただじっと聞くのみ。同意できぬというふうに、首を横に振る者は1人もいなかった。
これが、ジャーマン・マーシャル・ファンドとレガタム・インスティテュート、それにスウェーデン外務省の共催で開かれたセミナーにおいて、最も印象に残った事柄である。

ポスト・ポスト冷戦時代に入った

世界は本当に、ポスト・ポスト冷戦時代に入ったのだということもできる。
東西二極の冷戦時代、重要だったのは米国側かソ連側か、どちらのキャンプにいるかであって、合従連衡の余地はなかった。その意味では至極簡単な図式だった。
それがポスト冷戦時代になると、経済のグローバリゼーションやロシア、中国の市場経済化が、世界秩序から軍事力や同盟の意味を大きく後退させたと信じられた。
中国人がよく言う「win-win」の関係こそ支配原理であって、貿易と投資の網の目が、世界を平和と安定に導くと思われたのである。
どこそこの国が脅威である、などと語ることそれ自体、冷ややかな視線を集めかねなかった。前世紀の遺物でも見るごとき視線だ。

鳩山友愛主義は欧州でも周回遅れ

そんな風潮のチャンピオンだったのが欧州で、これを理論化したのが英国人の学者外交官 Robert Cooper である。彼の主著 The Breaking of Nations(邦訳『国家の崩壊』日本経済新聞出版社)は、題名からして雰囲気をよく表していた。

国家に拘泥するのは、歴史が「モダン」の段階にある国々の場合に限られる。欧州のように国家主権を各国が譲り合う「ポストモダン」の時代は、これを超克した進んだ状態だと論じたクーパーの所説は、案外とダーウィン、マルクス流の単線的発展史観に則り、しかもどこかに欧州中心主義の偏りを感じさせるものだったけれど、やはり世界はそれほど単純には行かなかったのである。
ちなみにクーパーはピアニスト内田光子と長年連れ添ってきたことでも知られる。余談ついでに言うと、鳩山流「友愛主義」は、国境や領土にこだわらないベルギーとオランダ、それにフランス辺りの風土でならぴったり来ただろう。

けれどもロシアが権柄づくでウクライナやグルジアを確保にかかり、ポーランドに圧力を及ぼす今、友愛ウンヌンで動くほど世界は甘くないことを本家・欧州自身が再確認しつつある。それがあってか、鳩山由紀夫総理の真意を筆者に尋ねたとある欧州のシニアな外交官は、「友愛」を、一周遅れの呑気者が言いそうな言葉だとでも言いたげだった。
(中略)
結局頼れるのは中国やロシアが拒否権を握るレガシー組織(国連とその安保理事会が最たるもの)ではなく、ギリシャのクレジットリスク一つ収拾しかねる欧州連合ですらなくて、政治経済の自由と民主主義という価値を共有する国々同士、なるべく頻繁に話し合って世界を引っ張っていこうとする以外ないということになる。

「ミニラテラル」をインドといろいろ

この点を、実はインドくらい強く言う国もそんなにない。日本から見ていると気づきにくいことだけれども、中国海軍がインド洋進出を本格化させつつある今、あれだけの巨大な国が四方八方を中国で囲まれ、戦略空間を狭められつつあるかに感じている。

安倍晋三総理の訪印やその際の議会演説、麻生太郎外相(肩書きはいずれも当時)の「自由と繁栄の弧」スピーチが、いまだにインド人有識者に強い印象とともに記憶されているのはそのためだ。
しかも当たり前だがインド人は英語が話せ、そのうえ口数が多い。日本人に足りない口舌運動の能力に長けている。リベラル欧州の真ん中で、インド人に地政学を語ってもらうことくらい、間接的に日本の役に立つこともない。

インドは「印日米」「印日英」「印日欧」「印日豪」、それから「印日インドネシア」とか「印日ベトナム」とか、いろんなマルチラテラルならぬ「ミニラテラル」会議を開くのに、日本にとってまたとないパートナーだ。会議を開くだけならそうカネもかからない。日本外交にやってほしい路線である。とりあえず友愛論を棚上げにして。

谷口 智彦 Tomohiko Taniguchi
日経ビジネス誌主任編集委員などを経て2005年8月~2008年7月外務省外務副報道官。記者時代に米プリンストン大学フルブライト客員研究員、上海国際問題研究所客座研究員、米ブルッキングズ研究所招聘給費研究員、ロンドン外国プレス協会会長など歴任。現在慶應義塾大学大学院 SDM研究科特別招聘教授、明治大学国際日本学部客員教授など。

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