【中国軍のエアパワー】4/8 「空母建設」の野望
攻撃力を急伸させる中国空軍に備えはあるか
日本とアジアの制空権を中国が握る日が来る
JBPRESS 2010.05.31(Mon) 永岩 俊道
「情報化条件下の局地戦」を戦い、勝利する
中国と米国の軍事能力には、いまだ相当の開きがある。よって当分の間、中国軍は米軍と同じ土俵で戦うのは得策ではなく、そこは中国一流のやり方で米軍の攻撃力をかわそうとしている。
中国軍が保持しようとしている「アクセス拒否」(anti-access)および「地域拒否」(area-denial)能力は、極めて複雑かつ多様である。
中国軍の言う「情報化条件下の局地戦を戦い、勝利する」とは、戦略ロケット軍による一気呵成のロケット攻撃はもとより、通信ネットワーク、指揮中枢、作戦インフラ、政治経済中枢などに対する直接攻撃に加え、サイバー攻撃、威嚇・恫喝あるいは欺瞞などとあらゆる手段を講じて、局域の作戦に勝利することを目指すものと考えられる。
米軍の介入に際しては、いわゆる「新三打三防」(ステルス攻撃機、巡航ミサイル、武装ヘリコプターに打撃を与える(新三打)、電子妨害、精密攻撃、偵察監視を防御する(新三防))で対応するとされている。実際具体的にどのような近代戦になるかは明確にされていない。
中国軍の作戦指導要綱には、「機能を集約し緊要な地点を集中攻撃せよ」という原則に忠実であれと記載してある。このことは消耗戦を原則としてきた中国軍の教義変更を示す兆候として、注目しておかねばならないことである。
また、中国の中央軍事委員会は2003年12月『中国人民解放軍政治工作条例』を改定・交付し、「世論戦、心理戦、法律戦」の「三戦」展開を新たに追加した。
この「三戦」は、人間の思想・意識を目標とし、戦場の物質・技術手段や情報メディアによって「我に有利・敵に不利」な主導体制を作為することにあると言われている。「三戦」の考え方には、老獪な『超限戦』の考え方と一部通ずるところがある。
また、近年では戦術レベルの訓練においても「三戦」を訓練科目としており、「三戦」の考え方が末端の部隊レベルまで浸透していると見られる。
一方で、『孫子の兵法書』に「兵とは詭道なり」のくだりがある。その兵法こそ現代にも生きる中国流の戦い方であり、その時々の敵情に応じて生み出す臨機応変の勝利の追求こそが、中国では古来から普遍のものなのであろう。
「空母建設」の野望
ロシアが中国に売却した空母「ヴァリャーグ」(ウィキペディアより)
中国海軍の空母建設の野望については既に議論がなされているのでここでは詳細な分析は避けるが、いずれにしろ、「中国が領海主権及び海洋権益の確保、対外貿易及びエネルギーの海上輸送路の保護及び日本やインド等の域内における海上強権国の脅威に対抗するためには、空母保有を含め、中国の海上作戦能力の発展が必要である」と考えていることは確かである。
しかし、空母建設は中国にとって課題の多いプログラムであろうと考える。非常に高価な建設・維持費はもとより、技術上の困難性に加え空母艦隊の脆弱性をいかに克服するかという課題もある。
米国の一部には、中国が空母建設に多大の軍事費を浪費すれば米海軍艦隊が最も脅威と認識する潜水艦や弾道ミサイル建造に対する予算配分が減少するので好都合であるとか、中国の戦闘機などのハイ・バリュー・アセットが空母に集約されるので攻撃能力の圧倒的に高い米軍にとって格好の攻撃目標となるとする穿った見方もないわけではない。
こうしてみると、空母建設の野望は中国軍にとっては、米軍来援を阻止する実効的な戦力としての安全保障上の必要性というより、「中国国民のナショナリズム高揚にある」とする見方の方が妥当かもしれない。
ただし、戦力格差の著しい米軍にとってはさほど脅威にならないかもしれないが、我が国をはじめとする周辺の海洋国家にとっては、地域の軍事バランスを大幅に変える存在となる。
周辺国に不要のセキュリティージレンマを引き起こしたり、相互の国益を損なうような不測の事態が生起したりする恐れが全くないとは言い切れない。
中国の空母建造の野望に対しては、その意図を確認しつつ深刻な懸念を継続して表明していかなくてはならない。併せて、その行動を抑制する必要な対抗手段(所要の戦闘機及び空対艦ミサイル等の開発等)を準備する着意が必要である。
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