『正論』10月号の日下公人氏と安倍晋三元総理の対談から抜粋します。
日下 国の名誉と国益を考えずに、己一個が良心の高みに立って、“いいひと”と思われたいという病にかかっている人物が民主党には多いらしい。本当に困ったことです。彼らが私財をはたいてやるのならよろしい(笑い)。しかし国民を巻き込むのはやめろと言わねばならない。
日本は国際社会の中に存在しています。そして国際社会では常に各国間の摩擦や軋轢が交錯している。その中で自らの国がどのような戦術・戦略をもって生存を図っていくのか、現実はしのぎを削る世界です。日本国憲法の前文にある「平和を愛する諸国民」の存在を前提にするような国家経営は戦後の日本以外にはありません。
外国に対して謝罪して回りたい人たちは、戦前の日本が平和を愛する諸国民に対して一方的に酷いことをしたと思いこんでいる。そして自分はそんな酷い戦前の日本人とは違いますと言いたいわけです。
しかし、これは歴史に対する無知でしかない。無知なことは仕方がないが、それで過去の日本を貶め、本来の日本人の可能性を狭めるような行為は許されない。明治開国以後、欧米列強のルールである帝国主義下にあって日本の立場は常に劣位戦を強いられてきました。優位戦は、攻めることも守ることも自在、戦いのルールから、勝敗や和平の定義までも決められる立場からの戦いで、劣位戦はそれらのイニシアティブがない立場からの戦いです。苛烈な帝国主義の世界がどれほどの危機感を当時の日本人に抱かせたかは、大東亜戦争以後の日本人には容易に想像つかないかも知れない。ゆえに独力でそれに対し、国の独立を全うしようとした苦悩の軌跡を野蛮な侵略行為などと簡単に口にできるとは無知の極みです。
安倍 日本国の政治家たらんとする者は、そうした先人の歴史に対する想像力と共感を自明としなければなりませんね。それを取り戻すことが私たちの世代の政治家の使命だとも思います。
日下 戦後の日本は被占領体制から一応の独立の過程も含めて、周囲の国に対して先行譲歩する、あるいは摩擦回避に務めることで過ごしてきました。敗戦国だからと隠忍自重して、とにかく経済発展を果たそうということでやってきた。
(中略)
安倍さんはそれを意識的に打ち破ろうとした希有な総理だった。日本は主体的判断をもって国際社会に参加し、その秩序や価値観形成に影響力を行使し得るということを示された。実はこうした見方で安倍政権を論じたマスコミもなければ、自民党内にもそれに気づいて安倍さんを支えようと動いた人たちが少なかったように思います。
(中略)
2007年6月にドイツのハイリゲンダムで開催された主要国(G8)首脳会議のとき、安倍総理は胡錦トウ主席に会談を申し込まれた。李登輝さんが来日する予定を知っていた中国側の返事は、「李登輝が来日するのなら首脳会談の雰囲気は醸成されていない」というものだったという。安倍総理は、「雰囲気が醸成されていない」というのが「首脳会談ができない」という意味ならば、「李登輝さんの来日は変えられませんから、また別の機会にしましょう」と投げ返されたのではないか。
編集者 そうしたら、「いや、こちらは会談をやらないと言っているわけではない」と中国が応じてきた。
日下 (安倍さんは)「日本には言論の自由も報道の自由もあるからそれはできない。会談はまたの機会で結構です」と答えたのでしょう。そうすると最終的に彼らは首脳会談の受け入れを伝えてきた。何事もなかったようにね。
安倍 経緯はともかく、胡主席との会談が予定されていた朝、李登輝さんは靖国神社に参拝されました。今度は外務省がびっくりして、これは会談がキャンセルになるかもしれないと言ってきた。しかし、胡主席も私も、何事もなかったかのように会談を行い、李登輝さんのことに触れることなく相互に必要な話をしました。そのとき私の秘書官が嘆息しながら口にしたのは、「ああ、こうやってこれまでは中国の要求に膝を屈してきたんだなあ」と、それは彼の偽りない実感だったでしょう。しかし、言ってみればこれはゲームなのです。
日下 そうです。彼らが挑んできているのはゲームです。その感覚が、劣位戦の経験しかない、あるいはそれしか日本の立場はないんだと思い込んでいる政治家や役人にはないのが問題なのです。
安倍 彼らの方がよほど、そのことを分かっています。ゲームだからこっちが勝つことがあっても怒らない。怒った風に見せるのは次のゲームに勝つための作戦です。彼らは、負けたらそれを反省材料に作戦を練り直してまたやってくる。そういうことだと思うのですがね。
日下 そう思います。それが民主党には全くかけています。菅談話が最たるものだし、官房長官や外務大臣、今度駐中国大使になった民間人によくよく感得してもらいたい。そしてそれを指摘できない日本のマスコミにも国際社会の現実を見抜くセンスが全くかけている。けっして夜郎自大ではなく、世界を相手に優位戦を展開する力は日本に備わっているにもかかわらず、全然それが国民に伝わらないように遮断しているインテリとマスコミは、本当に大バカのコンコンンチキです(笑い)。
View Comments
反日というシナの宗教
尖閣諸島の領有権に直結する中国船の体当たり事件で、中国共産党政府は反日色を丸出しに、理不尽な抗議を続けている。