菅首相は所信表明で日米同盟を基軸に置くと演説したが、元々親中派の菅首相にとって、それは普天間問題解決のためのポーズでありダブルスタンダードではないかと疑問がある。
菅直人首相による初の所信表明演説は、「いのちを守りたい」などを訴えた鳩山由紀夫前首相の演説に比べれば、現実路線にシフトしたといえる。一方で、憲法や教育問題など国の在り方に直結する課題に踏み込まなかったのは残念だ。
(中略)「政治とカネ」の問題についても、鳩山氏や小沢一郎民主党前幹事長の辞任で「けじめがつけられた」としただけだ。2人が関係する疑惑解明に民主党が動こうとしなかったことに国民が絶望したことを、もう忘れたようだ。
「現実主義を基調とした外交を推進」に異論はないが、中国の軍事力増大をどう直視するかがポイントだろう。「中国とは戦略的互恵関係を深める」というだけでは、安全保障への認識は不十分と言わざるを得ない。普天間問題でも、「先月末の日米合意を踏まえる」と語ったが、力点はむしろ沖縄の負担軽減に置かれ、この問題をどう決着させていくのか具体的な言及はなかった。首相交代による支持率急上昇に紛れて、前政権の失策に知らん顔では、首相がいう「最大の責務は国民の信頼回復」がどうして実現できようか。
経済・財政・社会保障を一体的に立て直す「第三の道」についても、どう実現させていくのか手順を示さなかった。そもそも問題点が多い。社会保障では少子高齢化に伴う負担だけをみるのではなく、雇用創出などによる成長を強調してみせた。だが、非効率な現行制度を改革しなければ、単に財政負担が膨らむだけだろう。(産経新聞 2010.6.12)
菅直人首相は14日の衆院本会議で、過去に北朝鮮による拉致事件の実行犯、辛光洙(シンガンス)元死刑囚の嘆願書に署名したことについて「対象の中に辛光洙が入っていたことを十二分に確かめずに署名したことは間違いだった。従来から反省している」と述べた。首相が就任後に嘆願書への署名を謝罪したのは初めて。菅原一秀氏(自民)への答弁。(産経新聞 2010.6.14)
菅首相の誕生 熱烈歓迎する中国の胸中
WEDGE Infinity 2010年06月09日(Wed) 石 平
菅首相の誕生に対して、中国メディアも高い関心を示した。6月4日付の国際問題専門紙・環球時報は「菅氏は中国との友好を訴え、(母校・東京工業大学の)中国人留学生の春節(旧正月)行事にも10年以上連続で参加している」と紹介したのに続いて、同じ環球時報の電子版は記事を掲載して、菅首相のことを「史上最も革新的な首相」だと絶賛した上で、「(菅首相の下では)日中関係のさらなる強化につながる」と期待感を示した。
中国の日本問題専門家たちも一概に、菅首相の誕生を歓迎する論調である。中国網日本語版(チャイナネット)は6月5日に伝えたところによると、前出の清華大学の劉江永教授は「日中関係の問題で菅直人氏は鳩山由紀夫内閣の方針を引き継ぎ、日中関係において非常に重要な役割を果たしていくだろう」との見解を示した。
菅首相が称賛される2つの理由
その中で劉教授はとりわけ、菅直人氏は従来より「台湾独立」への反対を明言していることと、日本の「対中侵略」を認めてこれについて謝るべきだと述べたことを取り上げた。この2点を根拠にして、彼は菅首相のことを「中国の立場を良く理解し中国と歴史認識を共有している日本政治家」として賞賛しているのである。
6月4日という同じ日に、劉教授は自らのブログにおいても「菅直人氏は中国の古い友人」と題する論評を発表したが、その中で次のようなことを述べている。
「6月3日、菅首相は、日中関係の発展を重要視すると発言した。日本の未来にとっては正しい選択であり、新首相が日中関係に新たな活力を注入してくれると期待している。菅首相は日本の親中派閥。平和的な発展を提唱し、正しい歴史認識も持っている。日本首相の靖国参拝に反対し、アジア諸国との友好的な協力関係の構築を提唱してきた。日米関係と同時に、中国との協力関係深化も重視している。私たちは菅政権の間に日中関係がさらに緊密化することを望んでいる」
問われる菅政権の対中政策
このように、菅直人首相の誕生を受け、中国の政府とオピリオンリーダーの専門家たちはいっせい「熱烈歓迎」の姿勢を示し、外国の指導者にたいしては異例とも言うべき大賛辞を捧げているのである。その代わりに、総理大臣を辞めたばかりの、もう一人の「古い友人」であるはずの鳩山由紀夫氏のことがもう過去の人の如く、とっくに忘れ去られたようである。
もちろん、まさしく前出の劉教授が指摘したように、菅直人氏は従来より、「台湾問題」と「歴史認識問題」という二つの中国にとっての「重大問題」に関して、まったく中国の国益に沿ったような中国寄りの立場を取っていることは、彼が中国によって大歓迎された最大の理由であることは明々白々である。だとすれば、中国側の思惑とは違った日本の立場からしては、これからの菅政権の対中政策の展開は、鳩山政権以上に、日本の国益よりもむしろ中国の国益に大いに適うような外交になるのではないかと憂慮しなければならないところだが、菅政権が樹立直後に行った最初の対中外交の施策を見れば、これはけっして杞憂でないように思える。
菅首相は就任早々、ある経済人を中国大使に任命する方針を固めたそうだ。経済人はえてして、中国を重要マーケットとして見る向きがあるのも事実。中国側の主張に引きずられ、冷静な日中関係が構築できないという事態を招かないか、菅政権の手腕が問われている。
【オピニオン】菅首相は米日関係を修復できる
マイケル・グリーンウォールストリート・ジャーナル 2010年 6月 14日 14:29 JST
日本で民主党が政権を取ってから米日関係が緊張している、というのは控えめな表現だ。昨年9月に発足した鳩山由紀夫前政権は、米抜きの「東アジア 共同体構想」を通じて同国の影響力を弱める方針を示した上、在沖縄米海軍基地移設計画に待ったをかけ、アジアに大きなプレゼンスを有する米国に対する日本の協力姿勢に 疑問を呈した。
また、反官僚キャンペーンを展開したため、経験の乏しい閣僚が事務方の作業をし、脚本家や評論家が官邸で安全保障政策の策定に当たるなど、政策決定過程が混乱した。最悪だったのは、当時の民主党幹事長だった小沢一郎氏に、同盟反対・反市場主義を掲げる連立与党の社民党と国民新党の意向をくんだ決定をさせたことだ。
後任の菅直人首相は、外交政策や安保政策での実績はほぼ皆無だが、こうした過ちの修正には熱心なようだ。就任最初の週に米日同盟が外交の基軸であると述べた。普天間飛行場の移設計画については米日合意を踏まえる方針を示した。中国訪問より前にオバマ米大統領と会談するため上海万博訪問を見送った。アジア太平洋経済協力会議(APEC)で、米も含めた太平洋自由貿易圏に関する計画を提唱した。なお一段と心強いのは、菅首相が小沢氏の影響力を抑えたことから、民主党の重力の中心が前原誠司国土交通相と関係の深い国防の現実主義者側に近づいたことだ。
以上はみな明るい兆しだが、米ではなお、オバマ政権は鳩山氏の価値を低下させたため、これから日本国民の復讐を受けるとの論評がある。これは少し違う。在沖縄米軍の再編で現実的な案に至る見通しを失う危険を冒さない範囲で、米政府は民主党政府に対する「戦略的忍耐」を示した。日本のメディアは全般に、両国関係の悪化の原因がもっぱら鳩山政権にあると断定している。世論調査では、米日同盟支持率や対米好感度は横ばいを維持した一方、鳩山首相支持率は20%を下回った。
より大きな問題は、オバマ政権が菅政権の誕生に安堵(あんど)し、両国関係に関して自己満足の自動操縦モードに陥いる恐れがあることかもしれない。
この9カ月の米政府は、アフガニスタンからイランまで外交上の課題が山積し厳しい状況にある。筆者が参加したブッシュ政権の国家安全保障会議(NSC)では、早期に対日関係でハイレベルの戦略セッションが1つあり、その後の日本政府との連携は共同戦略を理解し日本との共通の価値や利害を信じる当局者にスムーズに伝わった。しかし、オバマ政権のNSCでは、ハイレベルのセッションが多数あるらしく、日本との同盟関係の軌道維持に腐心しているようだ。事態が安定したように見える現在、真に危険なのはワシントンの日本疲れだ。
今は米国が米日同盟関係への注意を緩めるべき時ではない。米政府はこれまで9カ月にわたり日本政府に対して守勢にあるが、中国政府は東シナ海や南シナ海で活発に活動しており、核技術を手にした金正日総書記は朝鮮半島における抑止力と考えるものをちらつかせている。北朝鮮政府が起こしたとされる韓国の哨戒艦沈没事件は、北アジアの防衛問題に再び目を向けさせた。
米国と日本は、太平洋における戦略的均衡がこれ以上崩れないよう新たな戦略を打ち出す必要がある。日本政府は中期の防衛政策を策定中であり、数カ月後に報告書がまとまる予定だ。この報告書では米やアジア同盟国との安保協力強化が勧告される公算が大きい。オバマ政権がアジア戦略にこれを取り込めば、米日関係50周年に際して11月に予定されているオバマ大統領訪日で、同盟関係に関して明確なビジョンを打ち出せるはずだ。主な要素として、両国の防衛における相互の役割と使命、アジアの持続可能な発展と民主主義的規範のサポートの調整、米日二国間の経済提携協定や一帯の貿易自由化に向けた取り組みを盛り込むべきである。
両政府はまた、基地移設に関して再び沖縄からの支持を築く戦略が必要になるだろう。鳩山氏による突然の転換とポピュリズムのため、菅首相は正真正銘の政治的混乱を引き継ぐことになった。最悪のシナリオは、日本政府に対するフラストレーションの高まりに乗じて基地反対派の候補者が11月の知事選を勝つというものだ。そうなれば菅首相は、基地再編に関する米政府への言明を放棄するか、国会で法案を成立させて知事の決定を覆さなくてはならなくなるだろう。
米日同盟をめぐる事態は改善しているようだ。菅首相は民主党政権下での外交政策の軌道に関する不透明性を払しょくすべく重要な措置を講じている。他のアジア諸国は、敵も味方も同様に、オバマ政権が現状を超える日米防衛戦略を持つか否かを見極めることになる。
(マイケル・グリーン氏は、戦略国際問題研究所《CSIS》の上級顧問兼日本部長)
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世界覇権を狙う中国の野望 Part1
今度の参院選で、万が一にも民主党が単独過半数で政権を取れば、もう後戻りできないほど、日本の解体は加速してしまう。