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【中国軍のエアパワー】7/8 侮るべからず、「中国軍の軍事戦略および軍の近代化傾向」

攻撃力を急伸させる中国空軍に備えはあるか
日本とアジアの制空権を中国が握る日が来る

JBPRESS 2010.05.31(Mon) 永岩 俊道

侮るべからず、「中国軍の軍事戦略および軍の近代化傾向」

中国エアパワーのトランスフォーメーション状況について縷々分析してきたが、その近代化傾向を見て感ずるのは以下の点である。
中国は共産党一党独裁体制であり、その権力基盤を軍隊に置いている。また、共産党自身の政権を長期にわたって維持しているため、その安全保障政策にブレがなく、非常に長い視点で自国の国家防衛戦略を策定している。

現在の中国軍の近代化傾向を可能にしたのは、単に経済・技術の発展ではなく、建国以来、一貫した安全保障政策を怠らずに行いつつ、各時代で最も費用対効果の高い体制整備を選択してきたことによるものと考えられる。

軍事力が比較的に劣る時には外交や経済でカバーし、また軍の近代化が可能になった現在では、軍に驚異的な予算投資を継続しつつ、戦略的にエネルギー政策を拡大するとともに、上海協力機構による地域覇権の追求や軍事力を背景とした海洋進出を実施するなど、国家を挙げて大国中国のポテンシャルを上げつつある。

政権が代わるごとに安全保障政策がぶれるがごとき愚策は中国にはない。
また、過去の戦いからしっかりと教訓を得ている。日清戦争や台湾戦争、朝鮮戦争、中越紛争など、中華人民共和国建国以来のほとんどの戦争で軍事的に勝利し得なかったという屈辱的な経験や、米国などによる近代戦の分析を極めて熱心に分析し、自らの安全保障政策に生かそうとしている。

その際、軍隊の近代化などの及ばない部分については性急な改革をするのではなく、周辺の軍事的な緊張度、自国の経済的な余裕度等に応じ、身の丈に合った軍事力の整備をしている。
軍事力の質を追求せず、人海戦術という世界最大級の量に訴える一方、核保有による安全保障の最終担保を確保し軍事大国の一角を成すとともに、宇宙やサイバースペースにおける優位を追求するなど、ユニークかつ合理的な軍事戦略を取ってきている。また、軍事大国であることを国威発揚の手段として巧みに活用している。
さらに、戦略及び戦術の手段が多面的及び立体的である。

台湾に対する対応も、「威嚇戦」「麻痺戦」「攻略戦」を訴える一方で、「世論戦」「心理戦」「法律戦」「メディア戦」「外交戦」「エネルギー戦」などといった極めて多次元の戦略を長期にわたって適用しようとしている。
これらは台湾を越えて活用されるに違いない。

中国軍の近代化傾向を見るうえで注意しておかなければならないことは、かつての米ソのように強大な正規軍による力対力の直接的な衝突ではなく、また米国流の近代化を単純に模倣したものではない。
中国のエアパワーの近代化はそれらに加えて、今まで培ってきた多次元の非対称戦のノウハウも適用するという、バランスの取れた非常に手強い相手になる恐れがある。
中国の国家戦略は非常に重層的で精緻かつ狡猾であり、極めて長期的な視点に立脚している。そのような国家に対してナイーブに対応するのは最低の愚策であり、状況によっては我が方も同様の強かな国家戦略で臨む覚悟が必要である。

かかる戦略立案に関しては小論のテーマではないものの、所要の施策を講ずる際には、必ず大前提として、その大戦略を念頭に置いておく必要がある。行き当たりばったりの安全保障政策は功を奏さない。

 

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