政局LIVEアナリティクス 上久保誠人(早稲田大学グローバルCOEプログラム客員助教)
ダイヤモンド社HP 2009年10月13日【第34回】
http://diamond.jp/series/kamikubo/10034/
いま自民党に必要なのは「政権交代ある民主主義」への対応力だ
今後自民党が進むべき方向は何か論じてみたい。
安倍晋三元首相など自民党議員の間から、自民党は「結党の精神」に戻るべきだという意見が聞こえてくる。そもそも自民党とは、1955年の社会党統一に対抗して自由党、民主党など保守政党が合併したものである(「保守合同」)。つまり自民党の「結党の精神」とは、東西冷戦が激化した時代に、共産主義に政権を渡さないということを決意するものだった。その自民党が今、「結党の精神」を強調する意味は、新たな政権政党となった民主党を、東西冷戦期の「革新政党」のような、政権を渡すには危険な政党だとみなして戦おうということだ。実際、故・中川昭一氏のHPには、民主党政権の誕生で「日本が危ない」という意味のことが掲載されていた。
しかし、「結党の精神」への回帰は、「政権交代ある民主主義」実現という時代の潮流に対する認識を完全に誤っている。確かに鳩山政権が、外交・安全保障政策などで安定感に欠けている面はあるだろう。しかし日本は危なくない。国民が「失政を犯した政権を選挙で交代させる」ことを知ったからだ。
鳩山政権が安定感を欠いたまま国際社会で信頼を失い国民生活を不安に陥れたなら、次の総選挙で国民によって政権の座から引きずり降ろされるだろう。かつてのように自民党がどんなに失政や汚職を繰り返しても下野させることができない「危ない時代」は去ったのだ。
「お仕置き」は民主主義の真髄
自民党は総選挙の結果について、「自民党に対するお仕置き」「民主党が支持されたわけではない」「自民党の政策は支持されている」などと考えている。一時的なものと軽視しているし、民主党が失敗すればすぐに政権の座に戻れると思っている。しかし、その認識は甘く、民主主義に対する理解が欠けている。
「政権に対する国民のお仕置き」は軽視すべきではない。「失政を犯せば政権の座から降ろされる」と、政治が国民に対して緊張感を持つことは、政治の質を向上させる民主主義の真髄だからだ。世界的にみても、政権交代は国民による政策の詳細な検証の結果というより、国民の政権に対する「お仕置き」として起こることが多く、それは民主政治の健全性を保たせるのに有効に機能しているのだ。
いま自民党に必要なのは「政権交代ある民主主義」への対応力だ
今後日本でも、自民党が政権復帰したとしても、国民からの「お仕置き」に緊張し続ける「政権交代ある民主主義における二大政党の一角」にすぎなくなる。革新に政権を渡さないことを大義名分として、少々の失政やスキャンダルは許してもらえるという時代に戻ろうというのは、幻想にすぎないことを自民党は認識すべきだ。
しかし、谷垣総裁は国民からの「お仕置き」による緊張感をネガティブに捉えているようだ。それは「絆」という言葉を重視していることでわかる。「絆」とは、これまで自民党を支えてきた、良質の保守層というべき「家庭や家族、地域の絆を大切にする方々の期待にこたえる」という意味だそうだ。
しかしそのウェットな感覚は、農協、建設業界、特定郵便局長会などと自民党の長年の癒着の関係を維持しようとすることにつながらないだろうか。これからの「政権交代ある民主主義」では、政党は国民の「お仕置き」を避けるために政策立案と実行の能力を磨き続けるものだという、ドライな感覚を持つことが重要なのではないだろうか。
そして、自民党が進むべき方向は、「政権交代ある民主主義」に対応する、「透明な意思決定」「説明責任、情報公開の徹底」「政策中心の候補者選定」などのシステムを持つ近代政党だろう。それは、かつて小泉純一郎元首相が目指したものと一致する。
自民党内には麻生太郎前首相など「古き良き自民党をぶち壊したのは小泉氏」と恨む人が多いようだ。しかし、小泉氏が政権交代の元凶という認識では党再生は難しい。小泉氏は「自民党をぶっ壊す」と言いながら、実際は二大政党制への変化という日本政治の構造変化を的確に捉え、それに対応する近代政党に自民党を変えようとしたのだ。自民党の下野は小泉氏のせいではない。自民党が小泉氏の考える近代政党になれなかったからだ。
自民党は「政治改革大綱」の精神に立ち戻れ
自民党が近代政党に生まれ変わるには、今回の政権交代の原点である「政治改革大綱」(第31回)の精神に立ち戻ることである。「政治改革大綱」は、自民党政治の問題点が与野党勢力の永年固定化で政権交代がなく、政策よりも利益誘導を重視することで政治腐敗を招いていることだと総括し、その解決策は小選挙区制の導入による政権交代ある民主主義の実現であると主張していた。今回の政権交代は、20年前に自ら身を削り、血を流す覚悟で断行しようとした政治改革が実現したものだということを、自民党は思い出すべきではないか。
その意味で、今回総裁選に出馬すべきだったのは石破茂氏だった。20年前に「政治改革大綱」作成に関わったメンバーの中で、石破氏は現在自民党の幹部クラスとして残っているほぼ唯一の政治家だからだ。総裁選で争点となるべきは谷垣氏の「全員野球」でも河野太郎氏の「世代交代」でもなく、「政権交代ある民主主義へどう対応していくか」であるべきだったのだ。
石破氏は党の政調会長に就任した。政調会の部会長に若手を起用して国会の各委員会の次席理事を兼務させ、政府提出法案の対案作りに取り組むという方針を打ち出している。石破氏がどのように政権交代を総括し、党の近代化を考えるかが、自民党再生のキーとなるのだろう。全面的に支持できない部分もあるが、それでは民主党は小泉氏の考える近代政党を真似ねてより革新的な社会主義政策を加えたものだということだ。しかも小沢氏の手法は、自民党の長年の癒着の関係そのものであるし、信頼が離れた農協、建設業界、特定郵便局長会、医師会などと、地方の自民党支持者の仕置きから民主党へ票を奪い継承したものだ。労働者から団体、産業界までより幅広い守備範囲になった民主党にも民主党らしさとは何かが問われてくるだろう。
個人的には、そのような八方美人の民主党との違いは自主憲法と真の独立という保守本道ではないか。そして長期的視野に立った日本の幹を守り進化させる心強い政策こそ多くの国民に強く支持されるだろうし、その第三極の政党が重要なキーパーソンにならざるを得ないと確信するのだ。
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チャイナ・マフィアで治安崩壊
以前、「日本の裏社会 衝撃の実態」で、元公安調査庁の菅沼光弘氏が述べているように、かつての日本の裏社会、いわゆるヤクザとか街宣右翼の構成員は、在日韓国・北朝鮮系が2割、中国系が1割という比率であった。