たじまる 飛鳥-6 文字(漢字)の導入

文字(漢字)の導入

日本語の歴史

上代(飛鳥時代以前)

縄文時代の日本にはまだ固有の文字は存在していなかったとされるのは、その頃の遺物には現在まで文字らしい形跡が見つからないためでです。日本で文字が現れたのは、象形文字ではない中国から伝わった漢字の音を借用して漢字を使い書き表したのが最初で、5世紀頃、稲荷山古墳から発見された刀剣に「雄略天皇」に推定される名が刻まれています。これも万葉仮名の一種とされています。記された文字遺物がいくつか見つかっています。この頃盛んであった朝鮮半島諸国との関係から、政治制度や文化の移入に伴って、漢字の移入・使用がおこなわれるようになり、そこには渡来氏族が大きく関わっていたと考えられています。

漢文に送り仮名を付けて中国語発音である「音」を日本語の発音で漢字を「訓読」するようになり、日本語の文として読もうと、言葉の違いを認識し埋めていく工夫がされました。したがって、中国語発音以前に日本語は別の言葉だったといえるでしょう。(そもそもこれが訓読みと音読みが同居するややこしさ、よくいえば多彩な日本語のベースといえる。)

古代(飛鳥時代)

七世紀頃には『古事記』や『万葉集』を見ると、漢字のみを使って実に様々に工夫されています。『風土記』では人名や地名を漢字で書き表す際にさまざまな当て字が用いられており、「万葉仮名」と呼ばれる漢字の音を借りてその義(漢字本来の意味)に拘らずに一音節の表現のために用いるのが万葉仮名の特徴です。万葉集を一種の頂点とするのでこう呼ばれています。『古事記』には呉音が、『日本書紀』α群には漢音が反映されています。それらは「真仮名」、借字ともいいます。万葉仮名の自体をその字源によって分類すると「記紀」・「万葉」を通じてその数は973に達します。使用が確かめられる最古のものは、大阪市中央区の難波宮跡において発掘された652年以前の木簡です。

中古(平安時代)

平安時代に至ると、万葉仮名をもとにして、日本語固有の文字である平仮名片仮名が生み出されました。平仮名が生まれたことによって、例えば和歌のように一音一音を書き表すことが確実に行えるようになりました。こうした表現力を背景に物語り文学や日記文学などが大きく開花した。一方で片仮名は、仏典や漢籍など、漢文を読む際の補助的な文字として用いられたのが始まりとされています。

中世

「歌学」を中心に、古典、特に和歌を正しく理解し、あるいは実作するようになりました。既にこの頃は、平安時代とは日本語の音や文法などが様変わりしてしまっており、「てにをは」、「仮名遣い」などの違いが問題視されています。

近世(江戸時代)

国学をはじめ諸学が隆盛を見るようになります。古典の理解という域を超えて、前後の語句や意味によって様々に変化する「活用」の考え方が生まれ、現代の文法にも用いられています。

近代

西洋の文物や考え方が大量に移入され、これらを表すための新しい日本語が必要になりました。主に漢語の造語能力を活かした新しい漢語が生み出されたり、音の面では、多くの外来語を書き表すための表記方法が工夫(例:ファ、チャなど小文字表記?)されました。さらに母語としての言葉を習い教えるための体系的な国語科教育が整備されました。

戦後、政府は複雑な当用漢字を簡素化することを行いました。片仮名、平仮名も漢字を簡略化していましたが、それは意味を持たない発音を意味する文字であり、語彙を含む漢字そのものではありません。ゐ(wi)、ゑ(we)も消えました。

例えば、國→国、縣→県、濱→浜、驛→駅などです。それらは新字体と呼ばれ、古い自体を旧字体と呼び、今日ではほとんど使用されることはありません。それは中国も同様で、繁体字と呼ばれ、簡体字と新字体はそれぞれの国で独自に簡化したため字体が異なるものが多く、同じ漢字文化圏でも読めない場合があります。
また、中国では日本のカナや韓国のハングル文字に相当する文字が作られてこなかった経過から、外来語を発音で漢字に当てはめることで対応してきました。とくに国名など外来語は戦前日本でも行われていましたが、日本では片仮名で表すことがほぼ一般化しています。

現在、日本語を日常に使用している人は、世界中に一億二千万ほどといわれています。意外にも世界の言語の中でも多い方から10位以内に入るのだそうです。しかし、日本語は世界でも独自なもので、どのような系統に属すのかは、いまだに不明とされています。
参考『日本語の歴史』 近藤 泰弘  放送大学客員教授・青山学院大学教授

月本 雅幸  放送大学客員教授・東京大学大学院教授

杉原克己 放送大学助教授 より

言語と方言

方言とは、あるひとつの言語における変種のことです。同じ文法を用いる言語でも、語彙・発音(訛り・アクセントなど)・文法・表記法のいずれかもしくはいくつかの面で差異が見られる場合は方言といいます。同一国家内では、方言話者同士が会話する場合は、ある特定の方言そのもの、あるいはその方言を元にして新しく作られた標準語を使用してきました。

しかし、言語学から「同語族・同語派・同語群の同系統の別の言語」なのか、「同一言語の中の方言」なのかを客観的に区別する方法はなく、言語と方言の違いは極めて曖昧です。国境の有無などのような政治的な条件や正書法の有無などを根拠に両者の区別が議論されることもあり、「言語とは、軍隊を持った方言のことだ」というたとえさえ存在しますが、例外は多々存在します。

日本語のアクセントは、方言ごとの違いが大きいものです。日本語のアクセント体系はいくつかの種類に分けられますが、特に広範囲で話され話者数も多いのは東京式アクセントと京阪式アクセントの 2つです。東京式アクセントは下がり目の位置のみを弁別するが、京阪式アクセントは下がり目の位置に加えて第一拍の高低を弁別します。一般にはアクセントの違いは日本語の東西の違いとして語られることが多いですが、実際の分布は単純な東西対立ではなく、東京式アクセントは概ね北海道、東北地方北部、関東地方西部、甲信越地方、東海地方の大部分、中国地方、四国の一部、九州北東部、沖縄県の一部に分布しており、京阪式アクセントは北陸地方、近畿地方、四国の大部分に分布しています。すなわち、近畿地方を中心とした地域に京阪式アクセント地帯が広がり、その東西を東京式アクセント地域が挟む形になっています。

但馬弁日本の方言政策明治時代以降、日本では学校教育の中で標準語を押し進め、方言および日本で話されていた他の言語を廃する政策がとられました。方言を話す者が劣等感を持たされたり、または差別されるようになり、それまで当たり前であった方言の使用がはばかられる事になりました。東北弁と琉球語(琉球方言)が全く意志疎通ができないように、これは単なる方言といっていいのか、まったく異なった言語であるといっていいかです。文法が同じであり、中国語同様に漢字で書くと意思疎通が比較的容易です。

標準語がなかった頃は、どのように会話していたのでしょう。時代劇を観ていると、例えば幕末に、薩摩藩士と長州藩士、土佐藩士、江戸弁の幕府方や会津藩士、京都弁の公家などが当時どの程度スムーズに聴き取れていたのかは分かりませんが、漢字による文書を通じて理解できたでしょうから方言・武士など階級による言葉の差はあったものの理解し得たといえます。

現在では、テレビ・ラジオにおける標準語使用の影響により殆どの者が標準語を話せるようになった一方、その土地の方言を話せる人口はかつてと比べて確実に減っています(例えば近畿方言(関西弁)のように比較的方言が保たれていても、さらに細分化された地域性が失われる傾向もある)。特に若者の間でその傾向が著しいようです。方言アクセントは、多くの地域で若者においても保持されていますが、語彙は、世代を下るに従ってはっきり失われる傾向にあります。また、あえて、最近では若者の間で各地の方言を生かした会話を楽しんでいる場合もみられます。

日本語は系統において様々に議論があるものの、比較言語学的にいずれかの日本以外の他言語と共通の語族に属すことは証明されておらず、孤立言語とされています。ただし琉球諸島の言葉を、別の言語である琉球語とする考えがあり、その論をとれば日本語の同系言語が存在することになります。その場合、それぞれがさらに多数の方言に分類することができるため、これらすべてをまとめ一語族として日本語族と称し、日本語派と琉球語派に分類しています。

民族論

沖縄県や奄美諸島の住民と、その他の日本人との文化などの違いを抽出して、別民族(琉球民族)とみなす場合は、別言語といえます。

印象論

世界にはお互いに意志疎通が可能でも(すなわち音韻の違いが小規模且つ規則的でも)別言語とされている例も、意志疎通が不可能でも同言語とされている例もあり、聞き取れるか否か、或いは音韻関係がどの程度厳密かといったことは、言語か方言かを分類する決定的な根拠とは必ずしもなりえないとしています。

  • 言語とみなす場合、「琉球語はまったく聞き取れない。だから琉球語は日本語ではない」あるいは「琉球語は日本語とは異なる多くの言語学的特徴を持っている。だから琉球語は独自の言語と見なすのが妥当」。
  • 方言とみなす場合、「本土方言と琉球方言の音韻変化と文法には明確な関係とがある。さらに、日本各地の方言でよそ者に理解不能なのは琉球方言に限ったことではない。だから琉球方言だけを独自の言語と見なすことはできない」。
    政治論
    政治的に国家を背景として同一言語の方言であるとするものです。しかし、世界には複数の言語を有する国が多いし、また同一民族、同一言語とされるが複数の国家に分かれている事例もあるのでこれは絶対的な基準とはならないとしています。
  • 「琉球語」は「琉球民族」という意識・概念と密接な関係にあり、「琉球語」と言うこと自体が政治的・民族的(文化集団)な立場の表明となる。
  • 「方言」であると言うことが、例えば琉球王国をはじめとした独自の歴史・文化を軽視するような政治的立場の表明となる。
  • 沖縄県や奄美諸島に住む人々も本土に住む人々と同じ日本民族である。よって琉球語という呼称は正しくない。
  • 民族と言語も必ずしも一致するものではない、そもそも沖縄県や奄美諸島に住む人々を大和民族に含めて良いのかも疑問である、よって独自の言語とすることが妥当。
  • 琉球語か琉球方言かの論争は、民族や国家の根本問題とも関わり、冷静・学問的な論議が必要である。

    それに対して、アイヌ語は、アイヌ民族の言語で、話者はアイヌ民族の主たる居住地域である日本・北海道、樺太(サハリン)、千島列島(クリル諸島)に分布します。日本語と同様、「孤立した言語」とされています。それは、地理的に近い位置で話されてきたにもかかわらず、日本語との間には、語彙の借用を除いてそれほど共通点が見いだせないからです。専門家の間では、アイヌ語を、日本語の基盤となったいくつかの言語の内の一つから発展した言語とする見方が一般的ですが、現段階ではアイヌ語は特定の語族に属さないとされています。

    基本的な文型はSOV(主語・目的語・動詞)の順で、この点では日本語と同じですが、形態論的には膠着語である日本語と異なり、抱合語というイヌイット(カナダ北部グリーンランドなど)やアメリカ先住民族らの言語(エスキモー諸語、インディアン諸語など)の間でしか見られない、アジアでは珍しい分類に属するとされています。しかし、現在、アイヌ語を継承しているアイヌは非常に少なく、近いうちに消滅してしまうことが懸念されている言語の一つです。千島列島では既に消滅し、樺太でもおそらく消滅していて、残る北海道の話者も平均年齢が既に80を越え、数も10人以下となっています。

    本州以南にも、アイヌ語を起源とする地名が、かつて多数住んでいたアイヌの痕跡として残っているという説があります。この説は、北海道から東北地方北部(太平洋側は仙台付近、日本海側は秋田県・山形県・新潟県)にかけての多数の地形を実地に検分して共通点を調べあげた山田秀三の業績によって、学界に広く受け入れられました。

    琉球語(琉球方言)を独立した言語とみなすか方言とみなすかについては大きく意見が分かれます。言語学的には言語と方言を客観的に区別することができず、両者の区別は政治・宗教・民族などの歴史的・社会的要因によって一種の慣習として定まってきます。同様に次の例があります。

    主にセルビア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナで話されるセルボクロアチア語は、十数年前までひとつの旧ユーゴスラビアという共和国の言語で、各国・各地方の言葉は、使用する文字に違いはあっても同じ言葉であり、方言関係にあります。しかしユーゴスラビア紛争を経て国家が分裂した現在は、セルビア語・クロアチア語・ボスニア語という相異なった3つの言語であると主張がそれぞれの国家民族でされるようになりました。

    また、中国語の各方言はヨーロッパ各国の公用語ほどの違いがあり、北京語と広東語では意思疎通が難しいですが、表意文字である漢字で書くと書き言葉が同じであるため意思疎通が比較的容易です。さらに同系の標準語である普通話(プートンフア)があるために、方言関係にあるとされています。中国の大陸部やシンガポールの中国語(華語)は表記に簡体字を使い、台湾、香港、マカオの中国語は繁体字を使っており、発音表記にもそれぞれラテン文字と注音符号という別体系の文字を使うなど、一部が異なった正書法が使われていますが、別の言語との扱いは一般にはされていません。また、キルギス共和国には、中国から移住した、キリル文字で書き、アラビア語やロシア語から借用語の多いドンガン語を話す人たちがいますが、国も文字も語彙も違っていても、方言だとみなす人がいます。

    一方ドイツ語は、大きく北部方言(低地ドイツ語)と標準語を擁する南部方言(高地ドイツ語)に分けられ、互いに通じないほど違います。しかし、北部方言もドイツ語であるとされています。ところが、このドイツ語の北部方言ときわめて近い関係(方言の変化が連続的なので、明確な境界は存在しない)にあるオランダの言葉は、国が異なりオランダ語として、別の言語とされています。ドイツ語北部方言とオランダ語では会話が可能でありながら、同じ国ながらドイツ語北部方言と同南部方言では会話が困難だという奇妙な現象が起こります。

    出典: 『韓国朝鮮の歴史と社会』東京大学教授 吉田 光男
    出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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