“人口減少”こそビジネスチャンス(前編)

/ 10月 30, 2009/ オピニオン/ 0 comments

YTV「サプライズ 怒っと JAPAN」
http://www.ytv.co.jp/surprise/bosyu/index.html
で「少子化による人口減少は良いことばかりだ!」があった。
悪いことばかりではないという専門家の意見はなるほどと思うところが多くある。
捜してみると古田先生が記事を書かれていたの転載する。
参考までに番組による視聴者の共感度は「よい」10302pt、「良くない」36648ptで、良いことばかりだという意見は1/4だった。

“人口減少”こそビジネスチャンス(前編)
現代社会研究所所長・青森大学社会学部教授
古田隆彦 氏
日経BP 2005年9月5日
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/16/
 日本社会の少子高齢化を危惧する声が多い。政府が今年4月に発表した「日本21世紀ビジョン」でも2030年までに約1000万人程度の人口が減り、約 5人に1人が75歳以上の超高齢化社会が到来すると悲観一色だ。だが、「人口減少時代の到来こそ生活が豊かになり、企業にとってもビジネスチャンスが訪れ る」と現代社会研究所の古田隆彦所長は真っ向から反論する。『人口減少 逆転ビジネス』(日本経営合理化協会)を刊行し、古い常識からの脱皮を訴える古田氏に聞いた。
少子高齢化で人口が減るわけではない
――いよいよ日本も少子高齢化による人口減少の時代を迎えて、社会のインフラが維持できないのではないかと危惧する声が強まっていますが、どうお考えですか。
古田:
 多くの方々が誤解していますが、少子高齢化と人口減少を結びつけるのは間違いです。確かに明治維新以降急増した総人口は1億2700万人に達し、これをピークに2050年には1億人を割り、2100年には4473万人にまで落ちると予測されています。いかなる手を打っても今世紀末に6000~7000万人を保つのがやっとでしょう。
 しかし、この現象は後ほど述べるように大きな時代の転換点であり、成長・拡大型の社会から飽和・濃縮型社会への移行期なのです。決して少子高齢化といった次元の話ではありません。実際、少子化で出生数が減ってもゼロになることはありませんから人口は減りません。また高齢化で寿命が延びて死亡数が減れば、むしろ人口は増えます。それではなぜ人口が減るのか。それは、出生数より死亡数が多い「少産・多死化」のためです。
 過去40年間、ほぼ3~4年ごとに1歳ずつ伸びてきた平均寿命が限界に近づき、今後は10年経っても1歳伸びるかどうか、という段階に入り、2005年前後から死亡数が出生数を追い越します。そのため人口が減るのです。その本質を見誤って、少産・多死化を少子・高齢化と考えるから悲観論一色になるのです。
出生率を上げても人口は増えない
――すると、少子化を食い止めて出生率を回復すれば、人口減少を止めることができるという考え方は間違っていますか。
古田:
 出生率を上げれば、元に戻るというのは幻想ですね。人口を回復するには、出産適齢期の女性人口を増やして出生率を上げなければなりませんが、出産適齢期の女性は1990年当たりをピークに減り続けており、2025年には2260万人と2000年の77%まで落ちます。
 これを無視して、出生率だけを問題にするのはおかしな話です。政府やマスコミがいう出生率とは正確には「合計特殊出生率」であり、15~49歳の出産適齢女性の年齢別の出生率を足し合わせたものです。率とは全体に対する部分の割合ですから、いくら率が上がっても、全体(母集団)が減ったら“出生数”が増えるとは限りません。企業において収益率が上がっても全体の売上げが落ちれば収入そのものが減るのと同じです。母集団である出産適齢女性の人口が減っては出生数も増えないのです。
 出生率回復の政策や努力に意味がないとはいいませんが、この人口減少は社会制度や政策の失敗ではなく、大きな時代の波なのです。長い歴史の中では世界も日本も人口が増える時代と減る時代を繰り返しており、日本では再び減少時代がやってきたと考えるべきです。
日本では5回目の人口減少時代
――過去に人口が減る時代が何度かあったのですか。
古田:
 私は過去の日本および世界の人口推移を調べ、文明や技術の盛衰、文化や流行、経済活動の変化などが人口の増減と密接な関係があることを見出しました。これを「人口波動説」として発表しましたが、実は近代人工学の開祖、マルサスが1798年に出版した『人口の原理』の中で同様の理論を発表しているのです。私の説はそれを統計学的に証明したものです
 私は日本列島には過去5回の波動があったと考えています。
 まず第1は約4万年前の「石器前波」(人口は3万人)。第2に紀元前1万年前から始まる「石器後波」(30万)。第3に紀元前300年からの「農業前波」(700万人)。第4に西暦1400年から江戸時代まで含む「農業後波」(3300万人)。そして第5に1830年から現代まで続いた「工業現波」(1億2700万人)です。
 これらの5回の波動は日本列島の人口容量の変化を示しています。つまり、いかなる文明が列島の自然環境を利用したかという結果なのです。具体的には石器文明、農業文明、工業文明であり、それぞれの文明が作り出した人口容量が限界を迎えると、人口は停滞や減少を始めるのです。
江戸中期の減少は米作の限界
――戦乱もなく、安定していたはずの江戸時代中期に人口が減っているのですね。
古田:
 ちょうど享保から化政期にいたる江戸中期の人口は1732年の3230万人をピークに、1790年頃まで60年に渡って減り続けています。きっかけは気候の変化です。気温が急激に下がったことによって宝暦、安永、天明期に大飢饉が発生します。しかし、問題の本質はこの時代を支えていた集約農業文明が限界に達したためなのです。
 実は米を中心とした経済により、寒さに弱い米作りを青森の果てまで広げたことが大きな問題だったのです。幕末を基準とすると、なんと1730年頃の江戸中期までに耕地面積で92%、米の生産量で70%にも達していました。この無理な米作拡大が気候変化の影響を極大化したのです。
 天明の大飢饉によって東北の人口はおよそ半分に減り、農民たちは自らの生活水準を維持するために堕胎や間引きによる出産抑制に走りました。姥捨てなどもこのときに始まります。江戸や大坂などの都市では、文化の成熟化によって晩婚化や単身化が拡大し、出生率が低下しました。人口密度が高く、衛生状態も悪いために災害や流行病による死亡率も高まりました。
 太平洋戦争後、日本は加工貿易文明という新たな人口容量を得て、爆発的に人口を増やしました。日本列島で自給できる人口は7700万人といわれており、田畑の上に工場を建て、海外から食糧を買うことで、さらに5500万人を食べさせているのです。
 この加工貿易文明を成立させていた条件は工業製品の方が農業製品より高いということでした。ところが、1993年以降、小麦、米、とうもろこしの国際価格は上昇し始めました。世界の穀物生産量は3年連続で消費量を下回り、2002年には推定8300万トンもが不足する事態に陥りました。したがって今後も穀物の価格は上昇していくことでしょう。
 その一方で安い工業製品が日本に流れ込み、人々は今後に対する漠然とした不安を抱いています。この人々の心理状態は江戸中期と同じ状況ではないでしょうか。人口は社会の余裕があるときには常に増加し、余裕がなくなると本能的な人口抑制装置が作動するのです。これはあらゆる動物において起こることです。子供を作るより、自分を守りたい。これが少子化の正体なのです。
江戸の都市文化が爛熟
――人口減少は不可避のようですが、そうした時代にあっても人々の生活は豊かになるとおっしゃっていますね。
古田:
 大飢饉に連続して襲われた江戸中期ですが、人口減少の期間は文化が爛熟する華やかな時代でもあったんです。蘭学などの学問や文芸が栄え、歌舞伎、浮世絵、戯作などの町民文化が勃興し、限界に達した米作りに変わる手工業が各藩で発達します。商品経済が急速に浸透し、商人・町人が力を伸ばして、「十八大通」と呼ばれるような今でいえばベンチャー企業の成功者たちが登場。粋や通といった美意識を重んじて、独自の江戸の都市文化を築き上げていくのです。
 この美意識が優れた絹織物、陶磁器、漆器、美術品などを生み出し、近代日本の経済的基礎を固めていきます。いわば、この時代に産業転換が起き、次々と新しい産業や商品、サービスが生まれたわけです。
 一方で、農民の人口が減っても米の生産量は変わっていません。耕地面積の拡大、新しい農機具の開発などによって、生産性が上がったからです。農民一人当たりの収入は増え、貨幣を持った農民は干し魚、綿布、くしなどの選択材を買うようになります。この結果、経済における米の価値は減り、「米価安の諸色高」という現象が起きました。つまり、米価が下がる一方で、選択材の価格が高くなるのです。これによって武士階級は疲弊していき、幕府の守旧派は米経済を建て直そうと経済引き締めを繰り返すことになります。
働き手が減れば個人所得は上がる
――多くの経済学者は労働人口の減少で、現在の経済活動を維持できなくなると考えているようですが、いかがでしょうか。
古田:
 江戸中期だけでなく、14世紀のヨーロッパでも同じことが起きています。このときの原因はペストです。1340年頃に約7400万人に達したヨーロッパは、ペストが大流行し、たった10年間で約5100万人に激減するのです。この後も減り、人口が回復するまでに150年かかっています。
 これだけ働き手が減っても農業生産量は保たれていたのです。江戸と同じように工夫によって労働生産性を上げたのです。イギリスでは人口の4割が減ったため、農業労働者の雇用賃金は高騰して、2倍になり、15世紀には農業労働者の黄金時代を迎えます。ペストによって結果的には個人所得と生産性が両方共に上がったわけです。
 この時代に比べればいまや工場は自動化、ロボット化され、労働生産性をさらに上げることは可能でしょう。仮にGDP(国内総生産)がゼロ成長になっても、生産性を上げていけば、人口が減る分だけ個人所得は増えて、生活水準は高くなるのです。

古田 隆彦(ふるた・たかひこ)氏
現代社会研究所 所長・青森大学社会学部教授
1939年岐阜県生まれ。
1963年名古屋大学法学部卒業後、八幡製鉄(現・新日鐵)入社。社会工学研究所・取締役研究部長を経て、84年現代社会研究所を設立、所長に就任。
人口変動の研究や人口減少社会のマーケティング戦略の第一人者。過去の日本および世界の人口推移をつぶさに研究し、文明や技術の盛衰、文化や流行、経済活動の変化などが人口の増減と密接な関係があることを発見し、社会変動モデルとして「人口波動」の理論を確立した。少子高齢化を悲観する声の中で、一貫して人口減少を大きな時代の変化と捕らえ、新たな考え方や行動の仕方を提言している。
運輸省・運輸政策審議会専門委員、文部省・長期教育計画研究者協力会議委員、郵政省・文字画像情報電子流通研究会委員などいくつもの公職を歴任し、所属学会は日本社会学会、日本未来学会、日本消費者行動研究学会、消費者金融サービス研究学会(理事)など。
主な著書は『人口減少 逆転ビジネス』(日本経営合理化協会)、『人口減少 日本はこう変わる』(PHP研究所)、『人口減少社会のマーケティング』(生産性出版)、『日本はなぜ縮んでゆくのか』(情報センター出版局)、『凝縮社会をどう生きるか』(NHKブックス)、『人口波動で未来を読む』(日本経済新聞社)など多数。

■ブログ内リンク
“人口減少”こそビジネスチャンス(後編)
http://koujiyama.at.webry.info/200910/article_87.html
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