【迷走する普天間問題】1/5 ラムズフェルドの「10-30-30戦略」

/ 6月 12, 2010/ トピックス/ 0 comments

徳之島もグアムも論外、長崎と辺野古を提案する

迷走する普天間問題に元空将が緊急提言

JBPRESS 2010.05.19(Wed) 岡本 智博

 「普天間基地」移設問題の議論が沸騰している。
 しかし、沖縄に駐留している米海兵隊が8000人削減され4800人になることが示す意味、すなわち米国の軍事戦略の中でどのような変化が起きて、新たな戦略の中で沖縄駐留の海兵隊はどのような役割を担うことになったのかについては、誰も疑問に思わず、あるいは全く知らず、またマスコミも全く報道しない。

 こうした本質的な問題を看過して、また、日米安全保障条約の第6条に言う施設・区域の提供が米国の我が国防衛への参画の条件であることも看過して、「米軍は国外か、少なくとも県外へ」とか、「徳之島に訓練の一部を移転で」といったスローガンが飛び交う。

 さらには、「5月末までに決着しなければ鳩山首相はどのような責任を取るべきなのか」といったことにのみ焦点が当てられ、問題の本質が見失われたまま議論が横行している。本質を見失い、瑣事末梢にとらわれ大局を看過する、日本人の悪い性癖である。
ラムズフェルドの「10-30-30戦略」

 「普天間基地」移設問題は、実は、米ジョージ・W・ブッシュ大統領時代のドナルド・ラムズフェルド国防長官(当時)が示した「10-30-30戦略」に大きく関わっている。

 米国は軍事分野における変容(トランスフォーメーション)の結果、海外に駐留する陸軍および海兵隊の師団が軽量化されることにより、純作戦面からすれば、前方駐留(Forward Presence)という形式でなくとも、緊急時に前方展開(Forward Deployment)することで各種紛争等に迅速に対応できる時代となった。

 これは、米空軍が実施する衛星誘導爆弾による精密爆撃が有効となったため、陸軍の砲兵の役割を空軍が実施するところとなり、陸軍はカノン砲や榴弾砲といった重火器装備の帯同を局限することができ、重戦車の随伴も局限可能となったためである。
 軽量な部隊規模で作戦を遂行することが可能となったことによって、師団の軽量化が進んだことに加え、師団編制から旅団編制へのコンパクト化も進行した。また、重火器等が邪魔していた迅速・至短時の機動展開が可能となり、その結果、あらかじめ前方への展開を必要としない時代が到来したからである。

 しかしながら、平時において紛争を抑止する機能を重視すれば、事前に前方駐留(Forward Presence)しておくことには意義があることだ。

 ただし、その規模はこれまでと比較して格段に小規模な部隊であっても、初動の対応が可能となったことが認識されている。例えば韓国では現在、わずか2万5000人の米陸軍の前方駐留が李明博政権から米国に要請されているだけだ。朝鮮半島ではそのような戦略態勢が定着したのである。

 さらに米国は、このようなトランスフォーメーションを論拠として、グアム島を本格的な軍事拠点として確立することをアジア・太平洋地域における自国の軍事戦略として位置づけている。

 併せて、緊急時に本格投入する部隊をグアムに配備し、東アジア・太平洋地域における領域の防衛強化に当てることを目標として、グアム島において軍事力建設を開始している。その戦略が、ラムズフェルドの「10-30-30戦略」なのである。
 その戦略を簡単に説明すれば、ある地域に紛争が発生した場合、戦域に「10日以内」に展開するとともに、敵を「30日以内」に撃破し、その後「30日以内」にその他の地域に機動展開して、次の紛争に対処するための戦闘可能な能力を確立する。そのような能力の獲得を目標とするという軍事戦略なのである。

岡本 智博 Tomohiro Okamoto

ユーラシア21研究所・軍事問題主任研究員
1943年東京生まれ。都立日比谷高校を経て防衛大学校卒業(第11期生)。1967年航空自衛隊に入隊。1977年に幹部学校指揮幕僚課程を終了後、航空幕僚監部、航空総隊司令部等を経て、1981年防衛白書執筆担当。1986年から3年間在ソ連邦防衛駐在官として勤務。1993年空将補、1997年空将に昇任。航空開発実験集団司令官、統合幕僚会議事務局長を経て2001年に航空自衛隊を退官。
NEC顧問を経て現在「ユーラシア21研究所」軍事問題主任研究員。最近の著書として「自衛隊の現場から見る日本の安全保障」(共著、自由国民社)、「イラク戦争」(共著、芙蓉社)等、その他、論文や記者クラブ、自衛隊父兄会等での講演実施

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